悠の詩〈第1章〉
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俺はというと、同じ小学校でよく遊んだことのある松谷が俺の前で、先生を連れてきてくれる事になっている。
そして俺の次、ラストは…柏木。
席が離れてから全然喋ってないけど、アイツん家聞かなきゃ。アイツすぐ帰っちゃうし。
そう思って、帰りの学活が終わったと同時に柏木の席に向かおうとしたら、
「柳内!」
教壇から先生に呼ばれてしまって、その短い間に柏木は教室を出ていってしまった。
「なに、先生」
こらくだけるな、と先生は俺のおでこを軽くはたいて戒めてから、言った。
「先生、柏木の所は分かるから大丈夫だ」
住所を管理してるからとかではなくて、実際に行った事がある、そんな口振りだった…
「あっ」
そんな事を思い返していると、向こうから松谷と先生が歩いてくるのが見えた。
松谷が俺ん家の方に指を差していたので、ガラリと窓を開けて、身を乗り出して手を思い切り振ってみせた。
それに気付いた先生がバンザイをして両手を振る、リアクションでけぇ(笑)
ははっと思わず声を漏らしながら、俺は階段を降りた。
「かあちゃん、先生すぐそこまで来てる」
俺の言葉にかあちゃんはますますウロウロしだして、「ああ緊張する」とつぶやく内に、ピンポンと呼び鈴が家中に響いた。
渡り廊下を小走りして玄関を開けると、ニコニコと土浦先生が立っていた。
すぐ後ろで松谷が「よっ」と軽く手を挙げたので、「おう」と返事した。
「松谷、道案内ありがとう。お母さんによろしく伝えてくれ。また明日学校でな」
先生がそう言うと、「はい、さようなら」と松谷は頭を下げて帰っていった。
…