悠の詩〈第2章〉
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主は柏木だった。相変わらず飄々としたヤツ。
「え…と、くれんの?」
「2個ずつだって渡されたけど、私ひとつで十分だから。
あと、さっきからぐうぐう聞こえてる」
ニヤリと笑って、柏木は俺のお腹を顎で指す。
「よく気付いたな…オメー、さては地獄耳だな」
「いや? かーなーり、大きく鳴ってるけど?(笑)」
「まじか…オメー、そこは聞かなかったフリしとけよ」
「(笑)(笑)」
柏木が声を出さない笑い方をしてる横で、俺は貰った明太子のおにぎりをがぶりと頬張った。
コイツ、部員なのに観測に混じらないで俺んとこに来て、どーいうつもりだ?
あの日の、球場を出る時にミラー越しに見た柏木の眼差しを思い出して、何か言われる? 聞かれる?
そう思ったけど、特に何も言いはしなかった。
「…オメー、観測はどーした観測は」
おにぎりもすっかり消化して、尚も柏木とこんな端っこにいるこの状況が、何でか違和感でしかなくて、耐えきれず沈黙を破った。
「別に、土星は最後でいいし、星座だってどこからでも見れるし。
あ。
アンタレスも大分目立ってきた」
俺の違和感なんてどうでもいいらしい、つーか俺の方は始めからほぼ見てない(苦笑)柏木は、空を仰ぎながらひとりごとのように言葉を溢した。
「あんた…なんだって?」
「土星のすぐそば。赤い星があるでしょう。さそり座っていう星座の一等星だよ」
…