夜は嘘にふるえてる


 姉の四十九日の夜、私は夢を見た。
 小さな私が、姉のベッドの近くに座って、何事か話している。うつむいているくせに、何か一生懸命に。

「あのね、チュッパチャップスの、土星のなりそこないみたいな形が好きなの」
「うん、そうなんだ」

 姉が優しく笑う。私は顔を上げる。嬉しかったのか、笑って、言葉を続けた。

「だから、舐めて丸くなっちゃったのを見ると、むなしいような、さみしい気持ちになるんだよね」
「うん、うん」

 姉はうなずく。ひだまりのような微笑を浮かべて。

「由衣ちゃんは素敵な感性を持ってるね」

 おぼれるように、目が覚めた。
 私はひどく泣いていて、息がつまったのだ。
 むせかえって、顔を覆った。
 どうしても、これを止めなければいけなかった。
 けれど、体が異常なほどに跳ね返って、止まらなかった。

 お姉ちゃん!

 叫びそうになるのを、私は必死に耐えた。のどから、ひーっと息が漏れた。足がベッドを蹴る。

 一人で行ってしまった。

 嘘だ。こんな気持ちは、全部嘘っぱちなんだ。
 だから私は、誰にこの事実を伝えられるだろう。
 嘘を混ぜずに、寸分違わず、誰に。
 薄暗い部屋の中。私は布団の中、ずっとふるえ続けた。

 夜は、もうすぐ明けようとしていた。


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