概念サバンナの今日たち

 皆、うさぎのことを忘れた。
 いや、忘れる以前に「知らなかった」。知ることができなかった。それは■が隠したから。
 うさぎはいない。知られることなくいなくなった。
 そのことを知っているのが俺だけである、ということと、■がそれを忘れている、ということには繋がりがある。
 ■がそれを忘れ、なかったことにしたからそれを知るのは俺だけになった。
 うさぎはもういない。
 帰ってきて欲しいわけではない。なぜならうさぎは死んだからだ。
 死んだものは帰ってこない。悼む期間も終了した。喪をやるには長すぎる時が経ってしまった。
 悲しみはない。涙もない。ただ淡々とした穴があるだけ。不在、という名の虚ろ。
 ■がそれを隠し、俺もそれを隠し続ける限り、うさぎを知る者は誰もいない。死どころか、存在すらも。
 ■■■■前に死んだ存在はどこへ行くのか。
 長く語られてきたテーマだ。それゆえ手垢がついている。そんなものをわざわざ語ろうとは思わない。あるのは穴だけ。
 いなくなったものは消え、どこにも行かない。
 そもそも思い出すらないものをどう悼めというのだろうか。
 もとより不可能な話をしている。どこにも辿り着けない話をしている。しかしこうして回すことでどこかしらに辿り着けるかもしれない、可能性はゼロではない、そうであるならやる意義はある。
 ゼロのまま死んだうさぎの不可能な悼み。
 案外それをやろうとしてやっているのかもしれない。
 そんなことはまあ、わからないのだが。
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