1章

 結局、プランは一歩が全て組み、晴馬も提示されたものに納得する形で話は進んでいった。
 香織里はそのプランに沿って、また各業者に手配する仕事に入る。今回も、精進落しの料理は虎鶴に頼むことになった。どこの店よりも融通が利くからだ。
『はーい、お電話ありがとうございます、虎鶴ですー』
 今日も朗らかなみのりの声にほっとしながら、香織里は要件を伝えた。
「お世話になります、東条です。精進落しの注文したいんですが」
『ああ、東条さん、いつもありがとうございます』
「こちらこそ。あの、一人だけ、小さい子供向けのものにしてほしいんです。幼稚園の子がいるので。小さい子供でも食べやすいものにできますか?」
 これは、一歩が提案したものだった。幼稚園の子供がいる、という香織里のメモを見て、一歩が子供も楽しめるようにしようと提案したのだ。
 孫の顔が見たい、美味しいものが食べたい。病床での喜一の漏らす言葉が、耳の奥に聞こえてくるような気がした。一歩は、精進落しでそれを叶えようと、打ち合わせ前に香織里に伝えた。
 式は一日葬で、簡素なもの。その中で、最も力を入れるのは会食にしようという方向になったのだ。晴馬もそれに納得している。
『任せてください。じゃあ、一人はお子様向けということで。コースは松竹梅どれにします?』
「松で。よろしくお願いします」
 人数を伝え、電話を切る。
 香織里は虎鶴の料理を見るのが好きだった。色とりどりの料理が重箱に入っている。一品一品が小鉢に入っており、見た目から豪華なのだ。寿司やだし巻き卵といったものに加え、ローストビーフ、サーモンのカルパッチョなどもある。
 他の料理店にも頼むことがあるが、虎鶴が人気だった。
 虎鶴の他にも、僧侶、納棺師、火葬場、搬送会社、遺品整理を仕事にしている会社などにも連絡をする。遺品整理は、晴馬の兄が希望したものだった。
 それから園子には祭壇の準備を頼んだ。今回は小さな祭壇だったが、園子は話を一通り聞いた時から「任せてちょうだい、いいものにするわ」と張り切っていた。花屋と繋がりが深いのは園子なので、花に関することは園子に任せている。
 式は明後日である。晴馬の兄たちは、今日には帰ってくるという。喪主は晴馬の兄だった。とはいえ、式自体は晴馬の希望に沿っていた。兄弟の仲はとりわけ悪いというわけではないらしいので、このあたりは兄弟で話し合って決めたのだろう。
 晴馬の思いは、香織里が直接聞いていた。それが理由なのか、いつも以上に、成功させなければという気持ちになった。
 祭壇に飾る遺影を、晴馬に持ってきてもらった。村上喜一、六十七歳。写真の中にいる喜一は、グレーのスーツを着ていた。晴馬の話によると、病気が悪化し始める前に撮ったものだという。喜一から撮りたいと望んだそうだ。微笑みの中に、苦しさが滲んでいる。真一文字に口を結んでいた。

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