3章

 六月の頭、梅雨入りに入るか入らないかのところで祭りは始まった。三日間の天気は晴れ。ガーデン見学にはうってつけだった。香織里はどことなくおてんとちゃんのおかげじゃないかと思っていた。
 仕出し料理店から届く弁当を店内に並べ、香織里と早紀も仕込みをはじめる。
 初日の午前はちらほらと人が来る程度だったが、午後が近づくにつれて徐々に人が増え始めた。それに合わせて、弁当やアイスを求めてカフェに来る人も増えていく。
 その中には、一歩と香織里が一緒になって担当した村上晴馬、佐藤幸恵の姿があった。
 晴馬はカフェができていることを知らず、香織里が作ったケーキが食べられることを喜んだ。
 虎鶴の弁当をいくつかレジに持ってきた時、香織里は晴馬に声をかけた。
 あれから変わらず、皆元気に過ごしているという。今日はたまたま兄夫婦が実家に帰ってきていたようだ。
「陽向が、お葬式で食べたケーキを食べたいって言うもんですから。東条さんにいただいたケーキも美味しかったし、また食べに来ます」
「はい。待ってます。言ってくれれば、お葬式にお出ししたものと同じケーキも出せますから」
「え、そうなんですか?」
「お見送りランチってサービスやってて。お見送りって名前ついてますけど、思い出のものならなんでも作りますよ」
「へえ。帰って話してみます」
 これが初めて、お見送りランチに興味をもってくれた瞬間だった。
 まだ認知されてないサービスだが、これから徐々に興味を持ってくれたらいい。焦る必要はなかった。
 その次に来た幸恵はアイスとコーヒーを注文した。手には花をいくつも入れたビニール袋があった。
「お父さんの店に飾ろうと思って。オープンしたって聞いて、本当はすぐに来ようと思ってたんだけど」
「来てくれてありがとうございます。あの、私も、お店にまだ行けてなくてすみません」
「いつでもいいですよ。私もあれからソースを何度か作ったんです。お店でも何度か食べさせてもらったんですけど、やっぱり美味しいなって。食べようって思わせてくれたのが、東条さんで良かったです。福原さんにもよろしく伝えておいてください」
 二人とも、お別れをしたあと、自分の人生を歩んでいた。
 死という大きな変化を受け入れ、その変化の先の人生を生きていた。
 いいお見送りができていたのだという実感があった。自分がやってきたことがここで再評価されて、香織里は嬉しかった。
 だが、香織里にはまだ大きな仕事が残っている。
 ピークを超えたあと、香織里は店を早紀に任せてホールに向かった。
 おてんとちゃんもぴったりくっついて着いてくる。やはり自分と関わりがある人を待っているのだ。
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