1章

 帰宅後、帰りが遅いと愛翔に怒られた。自分で作ればいいのにと言うと、それは面倒くさいと返ってきた。
 さっと焼きそばを作り、父と愛翔と一緒に食べていると、スマホが鳴った。使っているニュースアプリの通知だと思って、すぐには見なかった。
 入浴と家事を一通り終え、リビングのソファに寝そべってスマホを手に取った。ニュースアプリではなかった。早速一歩から連絡が着ていた。
『葬儀アシスタントをするより、カフェを営んでみないか』
 単刀直入なメッセージに、香織里は慌てて体を起こした。
『年始には、社長にアイデアを提出したいから、香織里さんの考えが聞きたい。やっぱり、この休みのどこかで、直接話をしたいんだけど。香織里さんの働き方に関わることだから』
 何故か、どぎまぎしていた。
 どう返すのが正解なのだろう。スマホを握りしめ硬直していると、後ろから愛翔に声をかけられた。
「何してんの、誰? デートにでも誘われたの? カフェ?」
「バカ、勝手に見ないで」
 香織里が慌てていると、愛翔はニヤッとして二階に逃げていった。
 リビングが静かになり、自分の胸の音だけが聞こえてくる。デートではない。これは仕事だ。仕事の話をしに行くのだ。そう自分に言い聞かせる。変に意識している自分が恥ずかしくなってくる。
 何度か書き直しながら、メッセージを送った。
『私はいつでも大丈夫です。まだよく話が分からないので、詳しい話を聞かせてください』
 その次の連絡は早かった。
『じゃ、明後日。お昼過ぎ。ここに来て』
 鉄は熱いうちに打て、とでも思っているのだろうか。何もかもが急だ。
 それから店の情報と住所が送られてくる。
 それもカフェだった。ローカルニュースで見たことがある。最近オープンしたカフェだ。コーヒーとパフェが美味しいと話題になっていた。
 店のホームページを開くと、一歩がアイコンにしていたパフェの写真がトップに表示されていた。
『分かりました。今日はお疲れ様でした』
 メッセージを送り、香織里は倒れ込む。
 これからどうなるんだろう。
 自分が想像していた以上のことが、あいメモリーで始まりそうな気がした。
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