夜警の詩
「玄関から入ってきたらどうなの」
窓を開けると、エルフの王が風とともに入ってきた。
「飛ぶことに慣れてしまって。驚かせてしまってすまない」
リュートは溜息をつきながら、妖精たちに指示をした。お茶くらいは出せるだろう。
クラウスとフルダは買い出しに行っていて不在。アイヴィンはかまどで休んでいる。ホームにはリュートと家事専門の妖精しかいなかった。
昼下がりは静かに過ごそうと思っていたのだが、風が来てしまってはそうはいかない。
「夜警に何か用事?」
「市長とさっき話をしてきた」
「市長?」
「君の義理の父親だろ。彼から、小人にかけられている呪いをどうにかしてほしいと言われた」
喉がこくりと鳴った。
小人にとっては負の遺産であり、自分の人生を縛るものだ。
かつて、小人が大罪を犯した際、エリアスの先代の賢者、アルテリアが残したものだ。法という名の呪いで小人の行いを縛り付けている。
「リュートは俺の妹なんだろ。君は星の子であることを隠しているつもりだろうけど、言わなくても分かる。どうして隠す必要があるんだ」
「過去の罪を背負っているのが恥ずかしいからよ。それ以外に理由はないわ」
リュートは空から落ちてきたあと、市役所の小人たちみんなに育てられた。
随分と可愛がってくれたが、市長から小人の歴史を聞かされ、夜警になれと言われた時、呪いを実感した。
自分は星の子であり、夜の柱であり、小人たちを束ねる長になるはずだったのに、呪いのせいで影に隠れなければならなくなった。
小人はもともと小賢しく、ずるい民だ。夜警になってもらうために可愛がってくれていただけだった。
夜警であることに誇りはあるが、星の子としては恥でしかない。
魔法がかけられているせいなのか分からないが、母の視線も感じにくいし、星の子としての感覚もさほどないのも恥ずかしかった。
「昔の人の罪まで、今の時代の子が背負う必要はないのだと市長は言っていた。俺もそう思う。だけど、俺も言ったんだ。俺だって、今の時代の星の子だとね。偉大な賢者だったアルテリア様と俺は違う。やれることはやるが、できないこともある」
杖を見せてほしいと言われ、リュートは壁に立てかけてあったものを持ってくる。
自分の背丈よりも長い、大きな杖だ。これに加えて、カンテラとベルを持って仕事をしている。
「随分と大きいな。大変だろう」
「市長からは罪の重さの象徴だと言われたわ。星の子は必ず夜警になり、小人の街を守護しないといけないの。私は嫌だった。けど、星の子ならばやらないと駄目だって。何もなければ楽な仕事だからって」
長年、胸の中にあったものを語ってしまうのは、彼が自分の兄だからだろうか。
彼はリュートの中にある星の輝きを感じ取ってくれた。それが嬉しかったのかもしれない。
「別に、呪いをなんとかしてほしいとは思ってない。夜警の仕事も今となってはやりがいを感じるわ。ただ、恥ずかしくて、悔しかっただけなの。私は夜の柱なのに」
エリアスは杖に手をかざしている。魔法の解析を行っていた。
「リュートは何も悪いことはしていないじゃないか。星の子本来の生き方ができないことに恥じることはない。小人の街を守るというのも、柱として立派な行いだ」
「そうかしら」
「そうさ。エルフの民なんか、昔はひとりひとりが別々の森に住んでたというんだから。国なんて元々はなかったんだ。星の子から離れると魔法の力が弱まるという理由だけで集まってるんだぞ。俺もまた民に利用されてるんだよ。生まれ落ちた時からずっとそうだった」
苦虫を噛み潰したような顔をするエリアスに、リュートは少しだけ笑った。
どの星の子も、似たような境遇にあるのだと思うと、少しだけ気持ちが軽くなる。
解析を終えたエリアスは申し訳なさそうな顔をしながら、杖をリュートに返した。
「アルテリア様の魔法はかなり複雑で強かった。今の俺には呪いは解けない」
「いいわ。呪いを解いたとしても、私は変わらず夜警だろうし。市長も裏で何を考えてるか分からないし。この民にはまだ賢者の法が必要なのかもね」
ぬるくなった茶を飲みながら、エリアスは杖を眺めた。
「昔は皆、星の子に従順だったと聞くが。それももう少数なんだろうな。時間が経つごとに、民たちは変わっていく。アルテリア様はそれを見越してたのかもしれない」
「それはあるかも」
エリアスの手がリュートの頭に置かれた。
帽子の上からぽんぽんと軽く叩かれる。
「もう一度言うが、恥ずかしがる必要なんかないからな。俺は人間を魔法で連れてきて、長年隠し持っていた罪を持ってる。小人以上の大罪になってもおかしくなかった。そんな俺と比べれば、リュートは本当に誠実な星の子だ。母上もきっと喜んでおられるよ」
「そう。ならいいけど」
顔が赤くなっている気がして、帽子で隠したかったが、エリアスの手はしばらく頭の上にあった。なかなか兄弟と会うことがないので、可愛がられているのかもしれない。
母にこうやって撫でてもらえる時が来ればどれだけいいだろう。
彼の言うように、母がいつも自分を見守ってくれていることを願うばかりだ。
窓を開けると、エルフの王が風とともに入ってきた。
「飛ぶことに慣れてしまって。驚かせてしまってすまない」
リュートは溜息をつきながら、妖精たちに指示をした。お茶くらいは出せるだろう。
クラウスとフルダは買い出しに行っていて不在。アイヴィンはかまどで休んでいる。ホームにはリュートと家事専門の妖精しかいなかった。
昼下がりは静かに過ごそうと思っていたのだが、風が来てしまってはそうはいかない。
「夜警に何か用事?」
「市長とさっき話をしてきた」
「市長?」
「君の義理の父親だろ。彼から、小人にかけられている呪いをどうにかしてほしいと言われた」
喉がこくりと鳴った。
小人にとっては負の遺産であり、自分の人生を縛るものだ。
かつて、小人が大罪を犯した際、エリアスの先代の賢者、アルテリアが残したものだ。法という名の呪いで小人の行いを縛り付けている。
「リュートは俺の妹なんだろ。君は星の子であることを隠しているつもりだろうけど、言わなくても分かる。どうして隠す必要があるんだ」
「過去の罪を背負っているのが恥ずかしいからよ。それ以外に理由はないわ」
リュートは空から落ちてきたあと、市役所の小人たちみんなに育てられた。
随分と可愛がってくれたが、市長から小人の歴史を聞かされ、夜警になれと言われた時、呪いを実感した。
自分は星の子であり、夜の柱であり、小人たちを束ねる長になるはずだったのに、呪いのせいで影に隠れなければならなくなった。
小人はもともと小賢しく、ずるい民だ。夜警になってもらうために可愛がってくれていただけだった。
夜警であることに誇りはあるが、星の子としては恥でしかない。
魔法がかけられているせいなのか分からないが、母の視線も感じにくいし、星の子としての感覚もさほどないのも恥ずかしかった。
「昔の人の罪まで、今の時代の子が背負う必要はないのだと市長は言っていた。俺もそう思う。だけど、俺も言ったんだ。俺だって、今の時代の星の子だとね。偉大な賢者だったアルテリア様と俺は違う。やれることはやるが、できないこともある」
杖を見せてほしいと言われ、リュートは壁に立てかけてあったものを持ってくる。
自分の背丈よりも長い、大きな杖だ。これに加えて、カンテラとベルを持って仕事をしている。
「随分と大きいな。大変だろう」
「市長からは罪の重さの象徴だと言われたわ。星の子は必ず夜警になり、小人の街を守護しないといけないの。私は嫌だった。けど、星の子ならばやらないと駄目だって。何もなければ楽な仕事だからって」
長年、胸の中にあったものを語ってしまうのは、彼が自分の兄だからだろうか。
彼はリュートの中にある星の輝きを感じ取ってくれた。それが嬉しかったのかもしれない。
「別に、呪いをなんとかしてほしいとは思ってない。夜警の仕事も今となってはやりがいを感じるわ。ただ、恥ずかしくて、悔しかっただけなの。私は夜の柱なのに」
エリアスは杖に手をかざしている。魔法の解析を行っていた。
「リュートは何も悪いことはしていないじゃないか。星の子本来の生き方ができないことに恥じることはない。小人の街を守るというのも、柱として立派な行いだ」
「そうかしら」
「そうさ。エルフの民なんか、昔はひとりひとりが別々の森に住んでたというんだから。国なんて元々はなかったんだ。星の子から離れると魔法の力が弱まるという理由だけで集まってるんだぞ。俺もまた民に利用されてるんだよ。生まれ落ちた時からずっとそうだった」
苦虫を噛み潰したような顔をするエリアスに、リュートは少しだけ笑った。
どの星の子も、似たような境遇にあるのだと思うと、少しだけ気持ちが軽くなる。
解析を終えたエリアスは申し訳なさそうな顔をしながら、杖をリュートに返した。
「アルテリア様の魔法はかなり複雑で強かった。今の俺には呪いは解けない」
「いいわ。呪いを解いたとしても、私は変わらず夜警だろうし。市長も裏で何を考えてるか分からないし。この民にはまだ賢者の法が必要なのかもね」
ぬるくなった茶を飲みながら、エリアスは杖を眺めた。
「昔は皆、星の子に従順だったと聞くが。それももう少数なんだろうな。時間が経つごとに、民たちは変わっていく。アルテリア様はそれを見越してたのかもしれない」
「それはあるかも」
エリアスの手がリュートの頭に置かれた。
帽子の上からぽんぽんと軽く叩かれる。
「もう一度言うが、恥ずかしがる必要なんかないからな。俺は人間を魔法で連れてきて、長年隠し持っていた罪を持ってる。小人以上の大罪になってもおかしくなかった。そんな俺と比べれば、リュートは本当に誠実な星の子だ。母上もきっと喜んでおられるよ」
「そう。ならいいけど」
顔が赤くなっている気がして、帽子で隠したかったが、エリアスの手はしばらく頭の上にあった。なかなか兄弟と会うことがないので、可愛がられているのかもしれない。
母にこうやって撫でてもらえる時が来ればどれだけいいだろう。
彼の言うように、母がいつも自分を見守ってくれていることを願うばかりだ。
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