5章
ドロシーと共に向かったのは、都から一番近い森だった。まるで、アルテリアの森のようだ。闇を湛え、沈黙している。
「こういう森は、世界の間に繋がりやすいのですよ」
森の入口に立ったドロシーは、香を焚いた。夜廻たちを目覚めさせた時とはまた異なる香りが広がる。異国の香りだった。甘さの中に、どこか懐かしさを感じる――そんな香りだ。
「早かったですね。もっとかかるのかと」
「前のまじない、ワタシも知っていましたからね。それを少し改良しただけです。それから、闇の深い場所。ここは寧子に教えてもらったのです」
ドロシーは空を見上げた。
空に異変はない。
「このまま続けましょう。霧が出てきますよ」
風が吹き、森が鳴く。だが、木々のざわめきは次第に遠くなっていった。ドロシーと夜鷹は白い霧に囲まれている。カンテラの光が二人を霧から守っていた。
弓は持っているかと聞かれ、手にある弓を掲げた。これは先程、ドロシーから新しく渡された弓だ。
弦は魔除けの草の汁が塗られているため、少し黄ばんでいる。
魔除けのまじないが完成したのだ。
「ではヨタカ。行ってらっしゃい」
「先生は」
「あなたが帰る時の道しるべとして残っていなければいけません。ワタシはこちらで待っています。帰りはアルテリアの魔法がありますから。大丈夫、行ってらっしゃい」
カンテラが渡されるのと同時に、ドロシーの姿が霧の向こうへと消えていった。夜鷹一人が佇んでいる。
カンテラを掲げ周辺を見渡す。これだけの光があっても、何も見えなかった。
水の粒が夜鷹の頬を濡らした。
粒だけではない。他の指が夜鷹の顔を触っている。霧の妖精たちだ。
「また来たのね」
「また来た」
「怖いもの知らずだ」
クスクスと笑う妖精に、夜鷹はカンテラを掲げる。彼らは眩しそうに目を細めたが、拒む素振りは見せない。
弦に指を当てると、妖精たちは慌てたように、夜鷹を宥める。
「今回は何の用事で来たの」
「エルフの森へ行きたい。アルテリアに用事があるんだ」
その答えに、妖精たちは手を叩いて喜んだ。
「いいことを教えてあげる」
くるくると妖精たちは飛び、霧が渦を巻く。
「あなたの友人は、アルテリアに燃やされたの」
危うくカンテラを落としそうになる。
「どういうことだ」
「鬼の王は法を破った。アルテリアはそれに怒って、罰を与えたのよ」
「そんな。昭晶は死んだってことか」
妖精は笑っていた。夜鷹の問いに答えてくれなかった。話にならない。弦を鳴らすと、妖精たちは悲鳴をあげて霧の向こうへと飛び去っていった。
妖精と共に霧もすっと晴れていく。
夜の国の星空が夜鷹を見下ろしていた。懐かしい故郷の空だ。あの空で自分と昭晶は寄り添いながら光っていた。
目の前にはアルテリアの森が広がっている。沈黙し、訪問者を飲み込もうと枝を広げている。
妖精の言っていたことが事実かどうかも知りたい。カンテラの光と共に森に入った。
襲いかかる枝たちを恐れたが、木々は沈黙していた。生気もない。ただただそこに佇んでいるようだった。光に驚いた鳥がバサリと飛び立つだけだ。
アルテリアの迎えもなかった。
夜鷹は不審に思いながら、森の奥へと足を進める。紅葉した広場にたどり着いた時、自分の目を疑った。
木々の葉が全て落ちていたからだ。まるでここだけ冬を迎えたようだった。生気を感じない。
「アルテリア」
巨木の扉を叩くが、返事がない。鍵は開いていた。静かに開くと、荒れた部屋が目に入ってくる。
足の踏み場がなかった。本や巻物で埋め尽くされている。
「アルテリア」
もう一度声をかけると、寝具がもぞりと動いた。こちらに背を向けて寝そべっている。寝ているのか起きているのか分からない。
「なあ」
「来ないでよ」
夜鷹が一歩踏み出すと、本が襲いかかってくる。
「来ないでってば! もう嫌だ、誰の力にもなりたくない!」
ばさばさと本が落ちていき、静かな嗚咽が部屋に響く。
何があったのかは分からないが、ひどく悲しんでいる。夜鷹は机の上にあったポットを持ち上げた。まだ中に茶が入っている。
ドロシーがしてくれたように、自分もそうした。
「俺にはあなたの力が必要なんだ、頼むよ」
「何をやってもお母様はわたしを認めない。褒めてくれない。そんなことして、何の意味がある」
面倒だよ。そう呟くアルテリアだったが、茶の香りに負けて身体を起こした。
一口含むと、わっと泣いた。
誇り高い賢者がここまで心を乱してしまっている。かける言葉が思いつかない。
寧子がしてくれたように、夜鷹は静かに寄り添った。
嗚咽混じりに口から出てくるのは愚痴だ。
自分の作った法の通り、弟に罰を与えた。全ては母親のため。母親が創った国のため。星の子は母親を愛し、母親のために生きている。
どれだけ頑張っても、母は賢者を一度も褒めるどころか、会いもしなかった。なのに、昼の国から戻ってきた昭晶には手を差し伸べた。
妖精の言っていたことは事実だったが、全てではないことにほっとした。
アルテリアの文句は続く。
「なぜお母様は弟ばかり。なんでなんだ。わたしに分からないことなんて、今まで一つもなかったのに」
その言葉には、嫉妬と、寂しさと、もどかしさが混ざっていた。
涙を湛えた瞳が夜鷹を見る。
「君……、人間だよね。でも、元は星の子なんだろ。知ってるよ。鏡で少し見たからね。なんで君は、向こうに行ったんだ。お母様が嫌いだったからなのか」
「それを知りたくて、ここに来たんだ。全て思い出したくて。あなたならできると思って」
乱れた髪をまたぐちゃぐちゃに掻き乱し、溜息をついた。
「面倒すぎる。でも……。君のことが分かれば、弟のことも分かるよね。そうしたら、お母様が弟に手を伸ばす理由も分かるかな」
「きっと」
アルテリアは立ち上がり、指を振った。本と書物が一斉に元あった場所に戻っていく。それでも、部屋はまだ雑然としていたが、彼にとってはきれいなほうなのだろう。
机の上には鏡があった。昭晶の持っていた鏡とは形は異なるが、魔鏡であることには変わりない。
「見な。お母様がわたしたちにくださった、真実の鏡だ。見たいと思うものを強く願うんだ。そうすれば、真実の奥まで見ることができる」
アルテリアに導かれ、夜鷹は鏡の目の前に立った。
鏡に広がるのは夜の国の空。アルテリアが言うには、この空は母の衣らしい。
「お母様は幻想の衣でこの国を創ったんだ。原初の星の子は地上に降り立ったのち、たくさんのものを創った。星の子は光を失うまで、夜の柱として、それぞれの種族の長となり、生を全うするんだ」
「昭晶は鬼だというのは、最初から決まっていたのか」
「そうだね。生まれたときから運命は決まっている。君はどうだったんだろう」
星の中に自分を探した。広大な星空の中から自分を見つけ出すのは困難かと思われたが、自然と見つけることができた。
二つの星が輝いている。自分と、それから昭晶だ。隣り合い、仲良く輝いていた。生まれたての星だった。
だが、突然、夜鷹の星に明るいものが混ざり込んだ。アルテリアが声を上げる。
「なんだろう、これ。もう一度見せてよ」
夜鷹も見たいと願った。鏡は夜鷹の星を大きく映し出す。
星と同じか、それ以上の強い光が夜鷹の星と混ざりあった。
夜鷹の星は一度形を崩し、たくさんの光の粒となったが、強い光と混ざり合い、元の星の姿へと戻った。それは一瞬の出来事だった。
夜鷹は何事もなかったかのように輝いている。
「なんだろう、誰の光だったんだろう」
鏡は現在の夜鷹を映し出す。
アルテリアが夜鷹の胸を指さす。何かを引っ張るように手首を曲げた。途端、眩い光が部屋を襲った。わっと声を上げたアルテリアは袖で顔を隠す。
「やめて、目が潰れてしまう! 悪かったよ、しまってくれ」
慌てた夜鷹は胸を両手で押さえた。星の光とはまた違った光だ。どこまでも照らしてしまいそうな強い光。押さえつけると、じわじわと胸の奥に戻っていく。
「ああ、びっくりした。無理に引っ張ってごめん。はっきりとは分からないけど、昼の王の光みたいだ。お母様と似た力の気配がする」
「でも、星の子でもある。どういうことなんだ。星の石も俺の胸の中にあった」
「お母様の星に、昼の王の輝きが混ざり込んだ、と考えていいかもね。君は昼の王の光を持っている。だから、星の子でもあり、人間でもあるんだろうね。ふうん。そっか」
アルテリアは何か思い当たることがあるのか、納得したような顔をしていた。
「でも、どうして昼の王が君に輝きを混ぜたのかは分からない。思い出せない?」
「分からない。そこまでは思い出せなかった」
けど、と、夜鷹は胸を押さえたまま言った。
「俺が自分で望んで、昼の国に行ったことは思い出せた。俺が昭晶を連れて行ってしまったんだ」
空で交わした、昭晶との会話。今なら鮮明に思い出せる。
唇を噛んだ。今、自分のなかにあるのは、後悔と罪悪感だ。
「空にいた頃から、昼の国に憧れていたんだ、俺は。昭晶は俺に……巻き込まれたんだ。俺が昭晶を連れてきてしまったんだ。昭晶はどこにいる。今すぐにでも会いたい」
アルテリアはすぐに鏡で探してくれたが、首を横に振った。
「まだお母様のところにいるみたいだ。お母様の城へは、お母様に招かれないと行けない。彼が帰ってこない限り、会うのは無理だ」
「そんな」
「一度、帰ったほうがいいよ。お母様がしようとしていることはなんとなく分かる。君は昼の王の子供なんだ。留守にしないほうがいい」
自分は夜の女王の子であり、昼の王の子でもある。
この事実を飲み込むよりも早く、夜鷹は昼の国に戻っていた。森の前に来た時と同じように立っている。
背後からドロシーにおかえりなさいと声をかけられる。
振り向いた途端、身体が強張ってしまった。
夜の国の空が目の前に広がっているのだ。ありえない数の星が地上を見下ろしていた。
「こういう森は、世界の間に繋がりやすいのですよ」
森の入口に立ったドロシーは、香を焚いた。夜廻たちを目覚めさせた時とはまた異なる香りが広がる。異国の香りだった。甘さの中に、どこか懐かしさを感じる――そんな香りだ。
「早かったですね。もっとかかるのかと」
「前のまじない、ワタシも知っていましたからね。それを少し改良しただけです。それから、闇の深い場所。ここは寧子に教えてもらったのです」
ドロシーは空を見上げた。
空に異変はない。
「このまま続けましょう。霧が出てきますよ」
風が吹き、森が鳴く。だが、木々のざわめきは次第に遠くなっていった。ドロシーと夜鷹は白い霧に囲まれている。カンテラの光が二人を霧から守っていた。
弓は持っているかと聞かれ、手にある弓を掲げた。これは先程、ドロシーから新しく渡された弓だ。
弦は魔除けの草の汁が塗られているため、少し黄ばんでいる。
魔除けのまじないが完成したのだ。
「ではヨタカ。行ってらっしゃい」
「先生は」
「あなたが帰る時の道しるべとして残っていなければいけません。ワタシはこちらで待っています。帰りはアルテリアの魔法がありますから。大丈夫、行ってらっしゃい」
カンテラが渡されるのと同時に、ドロシーの姿が霧の向こうへと消えていった。夜鷹一人が佇んでいる。
カンテラを掲げ周辺を見渡す。これだけの光があっても、何も見えなかった。
水の粒が夜鷹の頬を濡らした。
粒だけではない。他の指が夜鷹の顔を触っている。霧の妖精たちだ。
「また来たのね」
「また来た」
「怖いもの知らずだ」
クスクスと笑う妖精に、夜鷹はカンテラを掲げる。彼らは眩しそうに目を細めたが、拒む素振りは見せない。
弦に指を当てると、妖精たちは慌てたように、夜鷹を宥める。
「今回は何の用事で来たの」
「エルフの森へ行きたい。アルテリアに用事があるんだ」
その答えに、妖精たちは手を叩いて喜んだ。
「いいことを教えてあげる」
くるくると妖精たちは飛び、霧が渦を巻く。
「あなたの友人は、アルテリアに燃やされたの」
危うくカンテラを落としそうになる。
「どういうことだ」
「鬼の王は法を破った。アルテリアはそれに怒って、罰を与えたのよ」
「そんな。昭晶は死んだってことか」
妖精は笑っていた。夜鷹の問いに答えてくれなかった。話にならない。弦を鳴らすと、妖精たちは悲鳴をあげて霧の向こうへと飛び去っていった。
妖精と共に霧もすっと晴れていく。
夜の国の星空が夜鷹を見下ろしていた。懐かしい故郷の空だ。あの空で自分と昭晶は寄り添いながら光っていた。
目の前にはアルテリアの森が広がっている。沈黙し、訪問者を飲み込もうと枝を広げている。
妖精の言っていたことが事実かどうかも知りたい。カンテラの光と共に森に入った。
襲いかかる枝たちを恐れたが、木々は沈黙していた。生気もない。ただただそこに佇んでいるようだった。光に驚いた鳥がバサリと飛び立つだけだ。
アルテリアの迎えもなかった。
夜鷹は不審に思いながら、森の奥へと足を進める。紅葉した広場にたどり着いた時、自分の目を疑った。
木々の葉が全て落ちていたからだ。まるでここだけ冬を迎えたようだった。生気を感じない。
「アルテリア」
巨木の扉を叩くが、返事がない。鍵は開いていた。静かに開くと、荒れた部屋が目に入ってくる。
足の踏み場がなかった。本や巻物で埋め尽くされている。
「アルテリア」
もう一度声をかけると、寝具がもぞりと動いた。こちらに背を向けて寝そべっている。寝ているのか起きているのか分からない。
「なあ」
「来ないでよ」
夜鷹が一歩踏み出すと、本が襲いかかってくる。
「来ないでってば! もう嫌だ、誰の力にもなりたくない!」
ばさばさと本が落ちていき、静かな嗚咽が部屋に響く。
何があったのかは分からないが、ひどく悲しんでいる。夜鷹は机の上にあったポットを持ち上げた。まだ中に茶が入っている。
ドロシーがしてくれたように、自分もそうした。
「俺にはあなたの力が必要なんだ、頼むよ」
「何をやってもお母様はわたしを認めない。褒めてくれない。そんなことして、何の意味がある」
面倒だよ。そう呟くアルテリアだったが、茶の香りに負けて身体を起こした。
一口含むと、わっと泣いた。
誇り高い賢者がここまで心を乱してしまっている。かける言葉が思いつかない。
寧子がしてくれたように、夜鷹は静かに寄り添った。
嗚咽混じりに口から出てくるのは愚痴だ。
自分の作った法の通り、弟に罰を与えた。全ては母親のため。母親が創った国のため。星の子は母親を愛し、母親のために生きている。
どれだけ頑張っても、母は賢者を一度も褒めるどころか、会いもしなかった。なのに、昼の国から戻ってきた昭晶には手を差し伸べた。
妖精の言っていたことは事実だったが、全てではないことにほっとした。
アルテリアの文句は続く。
「なぜお母様は弟ばかり。なんでなんだ。わたしに分からないことなんて、今まで一つもなかったのに」
その言葉には、嫉妬と、寂しさと、もどかしさが混ざっていた。
涙を湛えた瞳が夜鷹を見る。
「君……、人間だよね。でも、元は星の子なんだろ。知ってるよ。鏡で少し見たからね。なんで君は、向こうに行ったんだ。お母様が嫌いだったからなのか」
「それを知りたくて、ここに来たんだ。全て思い出したくて。あなたならできると思って」
乱れた髪をまたぐちゃぐちゃに掻き乱し、溜息をついた。
「面倒すぎる。でも……。君のことが分かれば、弟のことも分かるよね。そうしたら、お母様が弟に手を伸ばす理由も分かるかな」
「きっと」
アルテリアは立ち上がり、指を振った。本と書物が一斉に元あった場所に戻っていく。それでも、部屋はまだ雑然としていたが、彼にとってはきれいなほうなのだろう。
机の上には鏡があった。昭晶の持っていた鏡とは形は異なるが、魔鏡であることには変わりない。
「見な。お母様がわたしたちにくださった、真実の鏡だ。見たいと思うものを強く願うんだ。そうすれば、真実の奥まで見ることができる」
アルテリアに導かれ、夜鷹は鏡の目の前に立った。
鏡に広がるのは夜の国の空。アルテリアが言うには、この空は母の衣らしい。
「お母様は幻想の衣でこの国を創ったんだ。原初の星の子は地上に降り立ったのち、たくさんのものを創った。星の子は光を失うまで、夜の柱として、それぞれの種族の長となり、生を全うするんだ」
「昭晶は鬼だというのは、最初から決まっていたのか」
「そうだね。生まれたときから運命は決まっている。君はどうだったんだろう」
星の中に自分を探した。広大な星空の中から自分を見つけ出すのは困難かと思われたが、自然と見つけることができた。
二つの星が輝いている。自分と、それから昭晶だ。隣り合い、仲良く輝いていた。生まれたての星だった。
だが、突然、夜鷹の星に明るいものが混ざり込んだ。アルテリアが声を上げる。
「なんだろう、これ。もう一度見せてよ」
夜鷹も見たいと願った。鏡は夜鷹の星を大きく映し出す。
星と同じか、それ以上の強い光が夜鷹の星と混ざりあった。
夜鷹の星は一度形を崩し、たくさんの光の粒となったが、強い光と混ざり合い、元の星の姿へと戻った。それは一瞬の出来事だった。
夜鷹は何事もなかったかのように輝いている。
「なんだろう、誰の光だったんだろう」
鏡は現在の夜鷹を映し出す。
アルテリアが夜鷹の胸を指さす。何かを引っ張るように手首を曲げた。途端、眩い光が部屋を襲った。わっと声を上げたアルテリアは袖で顔を隠す。
「やめて、目が潰れてしまう! 悪かったよ、しまってくれ」
慌てた夜鷹は胸を両手で押さえた。星の光とはまた違った光だ。どこまでも照らしてしまいそうな強い光。押さえつけると、じわじわと胸の奥に戻っていく。
「ああ、びっくりした。無理に引っ張ってごめん。はっきりとは分からないけど、昼の王の光みたいだ。お母様と似た力の気配がする」
「でも、星の子でもある。どういうことなんだ。星の石も俺の胸の中にあった」
「お母様の星に、昼の王の輝きが混ざり込んだ、と考えていいかもね。君は昼の王の光を持っている。だから、星の子でもあり、人間でもあるんだろうね。ふうん。そっか」
アルテリアは何か思い当たることがあるのか、納得したような顔をしていた。
「でも、どうして昼の王が君に輝きを混ぜたのかは分からない。思い出せない?」
「分からない。そこまでは思い出せなかった」
けど、と、夜鷹は胸を押さえたまま言った。
「俺が自分で望んで、昼の国に行ったことは思い出せた。俺が昭晶を連れて行ってしまったんだ」
空で交わした、昭晶との会話。今なら鮮明に思い出せる。
唇を噛んだ。今、自分のなかにあるのは、後悔と罪悪感だ。
「空にいた頃から、昼の国に憧れていたんだ、俺は。昭晶は俺に……巻き込まれたんだ。俺が昭晶を連れてきてしまったんだ。昭晶はどこにいる。今すぐにでも会いたい」
アルテリアはすぐに鏡で探してくれたが、首を横に振った。
「まだお母様のところにいるみたいだ。お母様の城へは、お母様に招かれないと行けない。彼が帰ってこない限り、会うのは無理だ」
「そんな」
「一度、帰ったほうがいいよ。お母様がしようとしていることはなんとなく分かる。君は昼の王の子供なんだ。留守にしないほうがいい」
自分は夜の女王の子であり、昼の王の子でもある。
この事実を飲み込むよりも早く、夜鷹は昼の国に戻っていた。森の前に来た時と同じように立っている。
背後からドロシーにおかえりなさいと声をかけられる。
振り向いた途端、身体が強張ってしまった。
夜の国の空が目の前に広がっているのだ。ありえない数の星が地上を見下ろしていた。