4章

「寧子と夜鷹が戻ってこないな」
 牛目は屋敷に集まる夜廻たちの中から二人の姿を探すが、見つけられなかった。
 朝の報告をしようと、夜廻たちが屋敷に集まっている。だが、その報告をまとめる寧子がいない。彼らにはいち早く休んでもらいたいのだが。
「藤六、寧子と夜鷹を知らないか」
「いや、知らないな。まだ帰ってきてないのか。星宮に行ってこようか」
「いや。もう少し待ってみよう。そうだな。昼。昼まで戻ってこなければ探してみよう。とりあえず、寧子の代わりに彼らから報告を聞いてやってほしい」
「了解」
 娘とは、話をしてある。
 もし、どちらかが昼まで帰ってこなければ、何かが起こっていると判断する。だから昼までは待つ。
 寧子は大切な一人娘だ。
 かつて、牛目は小さな村で生活をしていた。妻を持つこともできた。だが、その妻は過酷なお産に耐えきれず、寧子が生まれてすぐに死んでしまった。
 牛目がこの都に来たのは、寧子を育てる金を得るためだった。
 一度は、寧子を誰かに育ててもらうのが一番だと考えたこともある。孤児院に出向いたこともある。香花とはその時に出会った。だが、香花は、牛目に夜廻に行くように言ったのだ。あそこなら、すぐに仕事を得ることができるだろうと。
 確かにすぐ仕事を得ることができたし、子連れだから屋敷にいていいとも言われた。
 だが、娘も夜廻たちの世話になってしまっていた。娘は夜廻には恩を感じていて、夜廻の仕事がしたいと言い始めた。
 娘には護身術を身に付けさせ、何があっても自分の身は自分で守れるようにさせた。
 それでも。それでも、もし何かあったら。
 そのための約束が、昼という時間だった。
 昼を告げる鐘が鳴る。
 牛目が屋敷から出ようとした時だった。一人の女が屋敷を訪れた。
「ごきげんよう、牛目」
「香花様。何か夜廻に用事ですか」
「人を探しております」
 無意識に手が腰の刀に伸びる。
「寧子はどこにいますか」
「うちの娘に何か」
「星宮の行方が分かりません。先程、夜鷹にたずねてみたのですが、彼はどうも、わたくしに話したくないみたいで。ですので、寧子に聞きに伺ったのです」
「申し訳ありませんが、その寧子も帰ってきていないのです。夜鷹はどこに。俺からも聞いてみますよ」
 香花は笑みを絶やさずに告げる。夜鷹を地下牢に入れたと。
 その理由を聞いた牛目はぞっとした。
 夜鷹が母に反抗したから。そうだとして、そこまでするだろうか。地下牢という存在も知らない。一体、どこにあるのだ。
「まあ、お仕置きの一貫ですわね。子がわがままを言えば、母はしつけをしなければならないでしょう」
「夜鷹は既に孤児院から出ていますし、夜廻の一員です。このことは、まずは夜廻に任せていただきたい」
「急いでいます。あの子を今日船に乗せることが決まりました。牛目、あなた、隠していませんか」
「隠しておりませんよ。寧子は帰ってきていません。これから探すつもりでした。今日はお引き取り願いたい」
 香花は頬に手を当て、困ったような顔をする。視線は牛目の腰に送られていた。
「これだから、夜廻は……」
 ぶつぶつと文句を言いながら、香花は屋敷を後にした。
 深い溜息が出た。
 香花がやけに干渉してくるのは感じていた。何度も何度も牛目と寧子の様子を見に来る時からは感じていたが、夜鷹を次の頭領に推薦してきた時には確信へと変わった。
 孤児院出身の夜鷹を都合よく動かし、夜廻を手中に収めようとしている。
 自分もそれが今の夜廻にとっていいことなのだろうと思った。そういう時代になったのだと。
 だが、夜鷹が少しでも思い通りに動かなければ、すぐ地下牢送り。そんな彼女にこの組織を渡すことはできない。
 夜鷹は夜廻の一員である。まずは自分が夜鷹から話を聞くべきだ。
 夕方になり、午後の稽古を終えた夜廻たちが牛目の元へと集まる。いつもなら、寧子から今日の持ち場を告げられるのだが、その寧子は不在だ。
「寧子と夜鷹がいなくなった」
 牛目からの報告に、夜廻たちはざわざわとする。
「やっぱり何かあったのか」
 藤六が尋ねてくるので、昭晶がいなくなったこと、香花が探していることを説明する。夜鷹が牢に入れられていることを言うと、夜廻たちはさらにざわついた。彼らを鎮め、冷静になるよう言う。
「お前達に頼みたいことがある。香花様から何か聞かれても、知らないと答えてほしい。それから、寧子を見つけ次第、香花様たちに見つからないよう、ここまで連れてきてほしい。兵もうろついているかもしれない。特に、港付近。あいつは、何かあったら港へと向かう」
「あの女医さんですか」
 ドロシーの作ったまじないの薬を飲んだことのある男が聞いてくる。
「だろうな。もうじき夜だ。寧子なら、夜になって動くはず。俺は今日はここにいる。頼んだぞ」
 おう、と返事をした男たちは、藤六から持ち場を言い渡され、それぞれの場所に散っていく。
 真っ赤な空は次第に群青へと変わり、星が輝きはじめる。 
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