もう一度そうぞうを始めよう

 肌寒くて、身体が震えた拍子に目が冷めた。
 竹藪の中にいた。頭がぼんやりしていて、どうして自分がここにいるのか、しばらく分からなかったが、次第に思い出していく。
 家に戻ってすぐ、自室にある机の引き出しを開けた。小学生の頃から使っている学習机の、鍵つきの引き出しである。鍵はかかっていなかった。
 その中には、一冊のノートがある。
 あの少年を海から救い出す物語が拙い字で書かれていた。
「すっかり忘れてたよ……」
 本棚には、日本史の学習まんがが並んでいた。
 源平合戦の章がお気に入りだった。かっこいい男たちがたくさんいたからである。この先、どうなるんだろうと思いながら読んでいた。
 だが、最後に、とても悲しい思いをした。
 安徳天皇の死である。自分より幼い子供が、海に身を投げたという話に、胸を痛めた。
 どうしても彼には幸せになってほしい。自分なら幸せにしてあげられる。そう思って、使っていないノートに、彼と冒険する物語を書き込んだのだ。
 あんは、健太郎の友人だったし、健太郎はあんの友人だった。
 そして、まめは、健太郎がかなり幼い頃に飼っていた柴だったことを思い出す。病気で早くに亡くしてしまったので、すぐに思い出せなかった。
 もちろん、まめも、ノートの中にいた。あんも、まめも、ノートの中では幸せそうだった。
 夏休みの工作で作った街には、住民が必要だった。紙粘土を使ってあんと、まめを作り、街の中に置いて住まわせた。学校での展示を終えたあと、大きな街は捨ててしまったが、あんとまめはしばらくは残していたはずだ。
 押入れを開け、夢の中で解体した怪獣を出す。解体したあと、また組み立てて遊べるようにしていたのだった。電池は切れているが、入れさえすればまた動くだろう。
「……もっぺんやってみるかあ」
 何も、玩具メーカーは一社だけじゃない。他のところのほうが、自分に合っているかもしれない。
 玩具箱の前に座り、スマホで求人サイトを検索し、探し始める。
 やってみないことには分からない。
 また始めることにした。そうぞうを。
 
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