もう一度そうぞうを始めよう

 知っている怪獣だ。
 かつて、健太郎は、その怪獣を解体したことがある。小遣いで買った怪獣だ。だから、あんに教えられずとも、弱点は知っていた。
 健太郎たちの前に踊り出したまめは巨大な盾に姿を変えた。ガチンと金属と金属がぶつかる音が響く。
 その隙に、健太郎は猛ダッシュで怪獣の横に回り込む。
 顎に、銀色のネジが見えた。
 だが、高いところにあり、手が届かない。
 何か飛ぶものがほしい。トランポリンみたいな――。そう思うと、まめは玩具の小さなトランポリンに姿を変えた。それも健太郎がかつて使っていたものだ。今は部屋の片隅に追いやられているが、何度も跳ねて遊んだ記憶がある。
 それに飛び乗り、大きく跳ねた健太郎は、ドライバーと化した剣を顎のネジに突きつける。
 だが、それだけではネジは回せない。
「それっ」
 肩に乗っていたあんは、袖の中から紐を飛ばし、怪獣の首に巻き付けた。だらりとぶら下がる格好になる。
 電子音の雄叫びを上げながら、怪獣は首を振った。ふりこのように健太郎たちも振り回される。
 ドライバーはたちまち目打ちになり、それを首に突きつける。
「先に目だ」
 紐を伝い、怪獣の頭の上に登る。金属質の肌が懐かしい。
 目は小さな電球である。中の電球を外してしまえばいい。
 大きな金槌でパネルを割り、血管のように走っている配線をニッパーで断ち切る。
「電池を外したい!」
 配線を掴み、振り飛ばされないようにしながら、健太郎は叫んだ。
「どうやって」
「まず身体をひっくり返したい。足を外さないと」
 二足歩行型の人形だ。どちらか一本でも外せば自立できなくなる。
 地上では、まめがトランポリン型のまま健太郎たちを待ってくれている。
 思い切って配線から手を離し、地上に落ちる。トランポリンはちょうど着地地点まで走ってきて、健太郎たちをもう一度跳ねさせた。
「と、ど、けー!」
 あんはもう片方の袖から紐を出し、腹に巻きつけた。健太郎は大きく身体をしならせ、背中に飛び乗る。
 怪獣は背を起こし、滑り落とそうとするが、健太郎たちはその姿勢を利用し、紐でぶら下がる状態で足の付け根に到達した。
 ドライバーでいくつかのネジを外す。地上にバラバラと落ちていった。そして、最後に足が外れ、ゆっくりと倒れていった。
 バランスを崩した巨体はビルを崩壊させながら倒れる。
 手をバタバタとさせているが、所詮、玩具である。可動域は狭いし、手も短い。
 何もできなくなった怪獣の腹に、一つのネジがある。これを外せば、電池を取り外せる。
「でも、なんで、全部おれの知っている玩具だったんだろう」
「全部、ケンタがそうぞうしたからでしょう?」
「そうだったかな」
「この冒険も、ぜんぶ」
 カバーを外すと、単一の乾電池が剥き出しになった。
「ぼくは、とてもワクワクした。ケンタは?」
「そうだな。大人でも、ワクワクしたよ」
「ケンタの机の中」
「え?」
 電池を外す瞬間、あんは最後にこう言った。
「机の中に、思い出はあるよ」
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