妊娠・出産レポ

 6時前、突然「バツッ」と衝撃がした。身体が揺れるほどの衝撃で「!?」となり、その後ぎゅうっとお腹が痛み始める。バシャッと水が出たわけではないので、破水の衝撃ではなさそうだった。よく分からない衝撃で陣痛が始まった。怖さからパニックになり、すぐさまナースコールを押し、助産師さんに腰をさすってもらいながら落ち着きを取り戻す。急激に痛み始めるので、職場にいる旦那を召喚する。7時頃に戻ってきた。
 そこからお腹の前側と、おしりのちょっと上あたりが痛くなる。次第に痛みが変化し、次の痛みは「身をよじるくらいすごく痛いけど場所はぼんやりしてる」痛みで、やっぱり聞いていたものとは違った。腰がガンガンするとか、鼻からスイカとか、トラックで轢かれるとか、そういうものではない。全体的にぼんやりとめちゃくちゃ痛い、みたいな感じだった。グーッと締め付けられるような痛みで、生理痛をかなり強くした感じ、という表現がいちばん近いかもしれない。下痢感や骨盤が割れる感じは全くなかった。
その時に最後のトイレに行くものの、尿が出ず、管で取ることになった。人生初の管で、あまりにも痛くて叫んだ。ぐりぐり膀胱を押されている間にも陣痛がきて、何も考えられなかった。
 この時の子宮口は7センチほど。「えっ、もう!?」と驚いた。思ってた以上に開いていた。
 最初はフーッと息を吐いていられたが、次第にフーッが「ウーッ」とうめき声に変わる。
 助産師さんが旦那にテニスボールの使い方をレクチャーし、お尻を押さえるのは旦那の役目となった。「もっと強く!!!もっとじゃ!!!(怒)」と何度もリクエストした。この頃から痛みよりいきみ感のほうが強くなる。
 このあたりで助産師さんが夜の担当から昼の担当に変わる。私がウーッと唸っていると、何度も吐いて〜、声出さないで〜、と声をかけてくれた。上手にできたら、めちゃくちゃ褒めてくれた。昼の助産師さんに変わったあたりで本当にいきみたくなり、獣のように唸っていきみ逃しをしていた。声が自然と出るというのは予習済みだったので、これは本当だったんだなと思った。声を出していたほうが楽だった。 助産師さんはしきりに膣に指を入れて、会陰を伸ばしたり、赤ちゃんの場所をみたりしていた。
 次第にその唸りも大きくなり、もう一人の助産師さんがやってきて、声出さないで、体力なくなるよ、と言ってくる。その助産師さんの言う通りにしようとすると、半分声、半分息、みたいな出し方になった。息を吐く割合が少し増えると、めちゃくちゃ褒めてくれた。
 いきみたいーッと叫んでいると、院長先生がやってきて、まさかの妊婦健診がはじまる。予定通りだったら今日の午後にする健診だった。赤ちゃんのサイズを見るためだそうだ。それまで横向きで耐えていたが、健診のために仰向けになる。これがまたしんどい。でもこっちのほうが楽かも、となり、以降は仰向けで耐えることになる。
 その頃にはもう子宮口は全開で、助産師さんの「全開です!」がちゃんと聞こえていた。予習で全開になればいきめると聞いていたので、うれしくなったのだが、まさかのいきみ逃し続行。
なんでも、赤ちゃんがまだ旋回中で、降りきってないようだった。さらに陣痛の時間も短く、促進剤で強くすることになった。院長先生が横で冷静に説明していたのを必死に聞いた。同意書のサインは旦那が代筆した。
 お産が終わったあと、促進剤同意書のコピーを見て、それまでの陣痛が微弱陣痛だったことが分かる。
赤ちゃんがしっかり降りてきて、もっと強く長い陣痛が来るまで、地獄のいきみ逃しになる。
痛みよりも、いきみたい欲を発散させるほうがつらかった。何度もお腹に自然に圧がかかり、いきんでしまう。
 声を出さない、息を吐く、と何度も言われ、口をすぼめて「ブゥゥゥゥゥゥゥッッッ」と音を立てながら必死に吐いた。何回も「いきむ!!!」「いきみたい!!!!」と叫んだ。赤ちゃんが股に挟まってからは「股が痛い!!」と叫んだ(旦那の話では、「股に挟まってる!」と言っていたらしい)。助産師さんに「そこにおるからね〜」と言われたのはちゃんと覚えている。場所はぼんやりと全体的に痛いけど、でもやっぱりいきみ感のほうが強い。いきみ感に逆らうと身体が震えた。理性で逆らうものの本能に負けていきむと、痛みが消えるので余計にいきみたかった。
 いよいよメインの助産師さんが上着を着始め、さらに助産師さんが数人増え、分娩台が分娩台らしい形になり、私の足が固定された。YouTubeで予習していた光景そのままである。
 助産師さんがいきむ説明を始めたものの、それがいきんでいい合図だとは思わなくて「いきんでいい!?」と聞き返した。
 それからはだいぶ楽になり、合間に「私、いきむの得意かも!!!」とか言いながら陣痛のたびにいきんだ。めちゃくちゃ褒められた。股に挟まっている感覚はあるので、それを出すイメージだった。難しくはなかったし、いきめば痛くなくなるから、いきみ逃しよりはるかに楽だった。自分にはできる、いける、と思った。ただ、いきむ前の深呼吸が少し遅れると痛みを感じるので、深呼吸のタイミングは調整が必要だった。
 3回くらい陣痛が終わったところで、院長先生が「切るよー」と言うので「切るんですか!?」と聞き返すと、「切らんかったらズタズタに裂けるよ」と言われてしまった。「じゃ、切ってください」と言って、またいきむ。
 メインの助産師さんはそれまでずっと会陰を伸ばしてくれていたが、いきむのを始めると、もっと会陰を伸ばそうと指を回していた。かなり丁寧な動きだったのは覚えている。
5回目くらいの陣痛の時に会陰切開をし、切った瞬間に息子の頭がずるりと出てきた。出た瞬間はちゃんと分かった。そのままズルズルと引っ張り出され、10時19分に生まれた。そこで陣痛はあっさりとなくなる。
 その後、胎盤はすぐにはがれ、どぅるんっと出てきた。もっと痛いのを想像していたが、これは気持ちよかった。膣を通って出てきているのがちゃんと分かった。
 それから院長先生が会陰を縫い、私は「イテェ…」と小声で言いながら息子と旦那と写真を撮ったり、LINEで両親や職場の上司など、お世話になった方々に生まれた報告をした。スマホを触る元気はあった。
「もっと痛いのを想像してた」「私、いきむの得意かも」とか感想を述べていると、助産師さんたちが「そんなに喋れてるのすごいわ」と笑っていた。普通は喋れなくなるらしいが、どうも私は実況タイプだったらしい。自分の体のことをちゃんと感じ取っていて、心の中の声が全部漏れ出ていたから、状況が分かりやすかったと言われた。
 その後、落ち着いたあとに、メインの助産師さんに「めちゃくちゃ叫んじゃった」と言ったら、「そんなことないよ!お母さんめちゃくちゃ冷静だった、ちゃんと言うこと聞いてたし、上手だった、叫んでないよ!」と褒めてくれた。陣痛が本格化してからつきっきりで見てくれていたこのメインの助産師さんには感謝してもしきれない。
 陣痛時間はまさかの約四時間半というスピード出産だった。陣痛のスタートはやっぱり6時前のあの「バツッ」という衝撃だったらしい。
 6時間で生まれたらいいなあとか冗談で言っていたが、それを余裕で切るタイムだった。
 夜のメインの助産師さんもその後声をかけてくれた。体質、切迫気味だったこと、子宮頸管が元々柔らかかったことなどが理由だったんだろうね、と教えてくれた。
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