お隣のおともだち
バレンタインが近くなり、チョコを使ったパンの製造が増えた。バレンタインにチョコパンを食べる人なんてそんなにいないだろうと思うのだが、実際、売上はこの時期、やや伸びるらしい。
ということで、私たちは日々、チョコレートの匂いにまみれていた。
うちの看板商品であるクロワッサンに、チョコレートがコーティングされている。これは、今年の新商品だった。今までどうして開発されていなかったのだろう、というくらいシンプルな商品である。クロワッサンをチョコでコーティングするだけなんて、すぐ思いつきそうなのに。
機械の前で、流れていくそれらを見ていると、やっぱり食べたくなる。まだ売店で買ってない。豊崎さんもまだ食べてないと言っていた。
「バレンタインなんて、あげる人、いませんよねえ」
休憩室で、豊崎さんはそのように言った。
「義理チョコとかもしないタイプ?」
「したことないですね。タイプというより、そういうことをする友達がいませんでしたので」
「そうなんだ」
「黒渕さんは?」
「したよ。するのが当然みたいな空気だったから。私が中学生の頃は」
「え、やだ……、それはやりたくない」
「でしょ。義務でするのもなんか嫌よね」
「でも、憧れはありますよ。一度は義理チョコでもいいから、やってみたい」
豊崎さんは、紙コップに入ったカフェオレを飲み干して、言った。
「そうだ。黒渕さん。一緒にしましょうよ。バレンタイン。私、黒渕さんとしたい」
そういうことなら、もっと、年齢が近い友達としたほうがいいでしょ――、言いかけて、やめた。
豊崎さんが、私としたいと言ったのなら、私はそれに応じるべきだ。
思い出すのは、中学生の頃のバレンタインである。チョコを溶かし、たくさんのザラメで装飾し、袋にもこだわり、友人に配っていた。あの思春期特有の女たちの雰囲気を思い出す。
もうそんな雰囲気を出せる年齢でもない。買って済ませたほうがいいと思うようにもなった。
でも、豊崎さんがしたいと言ったのなら、付き合ってあげたいとも思う。
きっと楽しいはずだ。二人で、何かをするのは。これまでもそうだったから。
ということで、私たちは日々、チョコレートの匂いにまみれていた。
うちの看板商品であるクロワッサンに、チョコレートがコーティングされている。これは、今年の新商品だった。今までどうして開発されていなかったのだろう、というくらいシンプルな商品である。クロワッサンをチョコでコーティングするだけなんて、すぐ思いつきそうなのに。
機械の前で、流れていくそれらを見ていると、やっぱり食べたくなる。まだ売店で買ってない。豊崎さんもまだ食べてないと言っていた。
「バレンタインなんて、あげる人、いませんよねえ」
休憩室で、豊崎さんはそのように言った。
「義理チョコとかもしないタイプ?」
「したことないですね。タイプというより、そういうことをする友達がいませんでしたので」
「そうなんだ」
「黒渕さんは?」
「したよ。するのが当然みたいな空気だったから。私が中学生の頃は」
「え、やだ……、それはやりたくない」
「でしょ。義務でするのもなんか嫌よね」
「でも、憧れはありますよ。一度は義理チョコでもいいから、やってみたい」
豊崎さんは、紙コップに入ったカフェオレを飲み干して、言った。
「そうだ。黒渕さん。一緒にしましょうよ。バレンタイン。私、黒渕さんとしたい」
そういうことなら、もっと、年齢が近い友達としたほうがいいでしょ――、言いかけて、やめた。
豊崎さんが、私としたいと言ったのなら、私はそれに応じるべきだ。
思い出すのは、中学生の頃のバレンタインである。チョコを溶かし、たくさんのザラメで装飾し、袋にもこだわり、友人に配っていた。あの思春期特有の女たちの雰囲気を思い出す。
もうそんな雰囲気を出せる年齢でもない。買って済ませたほうがいいと思うようにもなった。
でも、豊崎さんがしたいと言ったのなら、付き合ってあげたいとも思う。
きっと楽しいはずだ。二人で、何かをするのは。これまでもそうだったから。