明日もどこかで誰かが

 県外の大学に進学した都合で、一人暮らしとなった。実家が嫌いで出られたことに喜んでいた。親のえこひいき、それに甘える妹。私はいつも我慢。家庭の中で長女として我慢する必要がなくなって、とても嬉しかったのだ。就職も県外の企業にした。五年以上帰っていないことになる。
 自由な生活を謳歌していると、突然、大学に進学した妹が私に連絡を寄越してきた。
『近くに越したから遊びに来てよ』
 一緒に住所が送られてきていた。あの子も一人暮らしを始めたのか。アパートを調べてみると、私が学生時代に住んでいたアパートよりも家賃が高かった。まだ親のえこひいきは続いているのだなと思った。
 けれども、五年離れてから、自分の生活を手に入れてから、心に少しだけ余裕ができたのだろう。分かった、と連絡をした。
 駅からほど近いアパート。セキュリティも万全。いい部屋に住んでいるんだなと思いながらインターホンを押す。私と似た顔の女が出てくる。すっかりあか抜けた、私の妹。
「久しぶり」
 絞り出した言葉はそれだけだった。
 妹の部屋はとても明るかったのだが、やや散らかっていた。机の上に無造作に置かれていたノートパソコンや教科書はベッドの上に移動される。
「掃除しなよ」
「仕方がまだ分からない」
「よくそれで一人暮らししようって思ったね」
 箱から出てきたのは、ショートケーキだった。真っ赤ないちごが白クリームに映えている。
「過保護な親に甘えてるなって思ったから」
「自覚あったんだ」
 彼女はフォークでいちごを取り、私のケーキに載せた。その一連の行動が理解できず、首を傾げる。
「ごめん。昔、お姉ちゃんのいちご、勝手に食べたやつ」
「……ああ、なんかそんなことあったね」
「お姉ちゃんの誕生日だったのに、お姉ちゃん、めっちゃ泣いててさ。でも、ママが許してあげなさいって言ってたの、覚えてる。たぶん、それ以外にもいっぱい我慢したんだろうなって」
 いちごのパックを持ってきて、ケーキの上に更にたくさん並べる。もうショートケーキではなく、いちごたっぷりケーキだ。
「いいよ。もう」
 ごつごつの大きないちごを指で取って口に入れた。酸っぱさがない、甘いいちごだった。
「あんたを嫌いなままでいるのは嫌だったからさ」
 一粒取って、真っ白の妹のケーキに載せる。
 いちごみたいに顔を赤くした妹も、おいしい、と呟いた。
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