4章 土井谷雅紀

 桜里の本は、思ったよりも売れた。山河のライトノベル担当がかなり気に入ってくれて、目立つところに置いてくれたというのもあるし、出身の地方新聞が桜里の出版を取り上げてくれたというのもある。その新聞社に働きかけたのは、もちろん俺である。東京だけでなく、地方にも本を置いたので、そこそこ数が出た。
 もちろん、爆売れというわけではないが、口コミをいくらか得ることができて、そこからじんわりと広がっていった。
「ありがとうございました。土井谷さんで良かったって思います」
 桜里は、俺に頭を下げた。
「いや、先生がいいものに仕上げてくださったからです」
「あおさんも、読んでくれたんです。私たち、今まで、お互いの作品は読んでいませんでした。不可侵条約というか……。読まないことで、関係を保っていたところがあって。でも、あおさんから読んでくれたんです。ラノベは読まないってずっと言っていたあおさんが、私のをはじめて読んでくれたんです。面白かったって。それが一番嬉しかったことです。本当に、ありがとうございました」
 彼女は今後、また公募に挑戦してみるらしい。それでまたダメで、お金が貯まったら、お願いしますと言われた。
 もちろん、何度だって手伝うと約束した。俺の仕事は、何度だって夢を叶えてやることだ。
 桜里の仕事をしていて、他の出版社を蹴ってまで、自費出版社を選んだ理由をようやく思い出した。
 どう頑張っても公募にも引っかからず、諦めようとしている作家たちの夢を俺は叶えたかったのだ。
 夢を砕く人じゃなくて、叶える人になりたかった。
 もちろん金はかかるし、金になるように営業もしなければならない。作家の夢を商売にしているという面はある。夢を食っているぼったくりと思われてもしょうがない。
 だが、金がかかっても本にしたいと思っている本気の作家たちを、俺はもっと尊重し、向き合うべきだった。
 紺野さんからはまだ連絡が来ていない。
 東京にいるかどうかも怪しい。黒柳が知っているとは思うが聞かないことにした。教えましょうかと囁かれるが何度も断っている。
 いつか、彼女から連絡が来たら、今度こそ彼女の夢を叶えてやろうと思っている。
 来なくても、俺はずっと応援している。彼女がいつか、夢を掴むことを。
 
8/8ページ
スキ