3章 白松リリア

「いえーい、新星リリコ爆誕おめでとう~」
 いつものように、いつもの居酒屋で、まゆと乾杯。
 まゆはいつしか、あたしのパートナーのようなものになっていた。まゆが、あたしに楽曲を提供してくれることも決まっている。
 その理由は「いつかリリコがでっかいアイドルになったら、わたしの歌を広められるから。リリコをプロデュースしてみたいから」だった。まあつまり、ビジネスパートナーってことだ。まゆはプロデューサーみたいなことをやってみたいと考えていたらしく、あたしのやりたいことと合致していた。
「ねぎさんからスパチャきてたね。良かった良かった」
「うん。嬉しかった。頑張れそう」
「いいねいいね。わたしも頑張る。目指せ黒鉄リリコ、ソロライブ!」
「……あ、あのね。もしライブするんだったら、まゆも一緒に出ない? まゆが、まゆの名前で」
 ぶふ、と、グラスの中で吹いた。
 ずっと前から考えていたことだった。まゆのことをバカにするためだけに一か月三軒茶屋に通っていたわけではない。あたしは、その間、まゆの歌が好きになっていた。
 まゆが作った歌をあたしが歌って披露するのも嬉しいけれど、まゆ本人にも歌ってほしかった。あたしはそれを聞きたい。
「アイドルと、シンガーソングライターが一緒に活動しててもいいじゃん。まゆも一緒に、配信に出ようよ。そういうあたしたちも、アリだと思う。あたし、まゆと一緒に歌いたいし、まゆの歌を歌いたいし、まゆがまゆの曲を歌っているのも見たいよ」
「本気で言ってる?」
「今のあたしは、本気だよ」
「ふうん。じゃ、わたしも本気だから、それ、乗るわ」
 こちん、と拳をぶつけあう。
 そうして、あたしたちは、あたしたちの活動をはじめることになった。コンビ名とかグループ名とかそういうのはない。リリコはリリコだし、まゆはまゆ。
 まゆと一緒にカメラの前で歌う。ねぎさんがスパチャで応援してくれる。ねぎさんのスパチャがあるから、あたしたちは活動ができている。
 もうあたしはあたしのことをバカにしないし、他人もバカにしない。
 新星のあたしにあるのは、満ち溢れた自信と期待ばかりだ。

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