6章
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この小説の夢小説設定物語の都合上、略した名前・略さない名前が2つずつあります。
ご自身の名前を使う際、ストーリー後半からになりますが
「主人公 名前」「主人公 名前略称」に登録すると読みやすいかと思います。
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「そったの、いらねじゃよ!」
『ヴィルさんが払う義務はないですよ』
「トレーニングによる約1ヶ月のスケジュール拘束と、出演料。ギャラと考えれば、ありえない金額でもないわ」
メンバーたちが受け取りを拒否するも、ヴィルはギャラという形で尚も引かない。
学生といえど、世界的な活躍をしているヴィルにとって500万マドルは大した金額ではないだろう。
しかし学校や企業からではなく、個人のポケットマネーで大金をもらうとなると変わってくる。
「………「アタシの気持ちをお金で買おうとしないで」…なんてマネージャーに言っておきながら、償う方法がこれしか思いつかないのはお笑い種だけど…このままじゃ、アタシが前に進めない。どうか、アタシのためにも受け取ってほしい」
「………よし、わかった!そのギャラ、受け取るぜ!」
「カリム!?」
「言っとくけど……オレは負けた責任がヴィルにあるなんてちっとも思ってないからな。でも、これでヴィルが自分の心にケジメをつけて前に進めるってんなら、オレは受け取る」
ヴィル自身のためにも、という言葉で何度目かの沈黙となる。
やがてその静寂をカリムが明るい声で切り開いた。しかし受け取ると返答したことで従者のジャミルは驚愕する。周りのメンバーたちも目を丸くした。
しかし驚愕はそこで終わりではなかった。
「……で!オレは受け取ったギャラを、全部オンボロ寮に寄付するぜ!」
「「「「『ええええ~~~!?』」」」」
なんと、カリムは金額を受け取ったままにせず寄付すると言い出した。
そこで一同が何度目かの驚愕で叫び声をあげる。静かになったり叫んだりと、今日は何かと忙しい。
ジャミルは驚くのも疲れたのか、溜め息交じりに尋ねた。
「またお前は……。ネージュの話に感化されたか?」
「そういうわけじゃなくて……いや、そうといえばそうかも?オンボロ寮での合宿中、オレ、すげぇびっくりしたんだ。本っっっっっ当にいろんなところがボロくてさ!」
「そ、そんなに力いっぱい……」
『これでもかなりマシになったんだよ』
カリムが悪気ゼロの満面の笑みで言うものだから、住人であるユウにはめいいっぱいのダメージが入った。
エディシアの言うとおり、これでも良くなったほうだ。
ユウが住み始めて間もない頃は、お湯が出ない時はある、雨漏りはする、隙間風は入るという機能的なボロさだけでなく、長年住人がいないことでそこらじゅうにクモの巣が張られ埃だらけで、とても住めるような状態ではなかったのだ。
金額面の問題というのもあったが、入学してから現在までは掃除で時間を費やしたといっても過言ではない。
「ユウにも、ここに住んでるゴーストたちにも合宿中には世話になった。なによりオレが、オンボロ寮での合宿すげー楽しかったんだ!だから感謝の気持ちを込めて、オンボロ寮をキレイにしたい!オレがもらったギャラなんだ。使いみちは自由だろ?」
「……黄金の君。キミは本当に、黄金の名にふさわしい心の持ち主だね」
ネージュに感化されたというよりは、カリムなりのお礼のつもりのようだ。
そんな主人の振る舞いに、従者であるジャミルは小さく息を吐くと続いた。
「俺もギャラとして、その金を受け取ります。その上で、オンボロ寮い寄付する。元より金なんておまけみたいなものだ」
「………僕も、オンボロ寮に全部寄付する!……綺麗にして、グリムクンが帰ってきた時にびっくりさせたいし。ね?」
「ありがとう……!でも、いいのかな……?」
『僕もオンボロ寮を使うことがあるから寄付するよ。でも自室をより快適にしたいから残った分だけね』
「イデア先輩から色々貰っておいてまだ何かするのか……防音素材で他の部屋より暖かいはずだろ」
「あはは…それでも寄付はしてくれるんだね、ありがとう」
エペルは約束を果たせなかったことと、ヴィルの気持ちに理解できることからギャラの受け取りを悩んでいたようだが、カリムの使い道を聞いて受け取ると決めたようだ。
一方エディシアは寄付するが満額ではないらしい。
寒さは少ないしすでに最高の作曲環境じゃないかとジャミルは呆れた。
次々と寄付する声があがっている状況にエースは不満の声を漏らす。
「え~~……みんなしてそういう空気作る~?」
「う、ううう…ギャ、ギャラがあれば、家計が楽に……でも……」
「オレはもらうぜ。くれるってんなら、遠慮なくいただきまーす!めちゃキツいことやらされたわけだし?新しい靴とか服とか欲しいと思ってたし?」
「ぼ、僕も……、いや、でもやっぱり僕は……」
「デュース、良い子ぶって無理すんのやめろって。第一、オレら賞金目当てで参加したんじゃん。なんでここで遠慮するわけ?」
『そうだよ。カリム先輩の言ってた通り、貰ったお金をどう使うかはデュースの好きにしていいんだし』
「それは……でも……」
エースは相変わらず周りの空気に流されることなく、自分の使いたいように使う予定のようだが、デュースは決断できずに迷っている。
エースが本来の目的を思い出せと助言するも揺らいでいるデュースに、ヴィルが「寄付という行為は同調圧力でするものではない」と話しかけた。
「アタシの失態は、こんな方法で償いきれないことはわかってる。けど、アタシは最初に”賞金の山分け”という言葉で参加者を募った。だから、これが今のアタシにできる最大限の誠意。アンタたちに命を救われたの。胸を張って、受け取ってちょうだい」
「………………っ、わかり、ました……。ありがとうございます!!!」
「アタシの話、ちゃんと聞いてた?お礼を言う必要はないわ」
『ユウ……今の見た?ヴィルさんの微笑み……しんど……』
「えっと……調子が戻って来たみたいでよかったよ」
「私のぶんも、約束通りオンボロ寮に寄付させてもらうよ。共に汗を流す、あの美しい時間を過ごせただけで私にとっては十分すぎるほどの価値がある。これ以上はもらいすぎさ」
支払う本人であるヴィルから胸を張ってほしいと言われ、デュースはようやく家計のために受け取るということで意思が固まった。
ルークは合宿前の宣言通り寄付するようだ。
全員の確認が取れ、謝罪していたエディシアとヴィルの表情も明るくなってきたところでカリムがソワソワとしだした。
「それだけの予算があれば、色んなとこが直せるんじゃねぇか?雨漏りの修理は当然として、色褪せてる壁紙やカーテンも取り替えたいよな。なにより、今のままじゃ地味すぎる!それから、ソファーの布も張り替えようぜ」
「いや、水回りやガス、ライフラインの整備が先決だろう。まずは予算内で修理箇所の優先順位をしっかり決めないと……」
カリムの提案にジャミルもしっかり参加する。
スカラビア寮を改築したのもアジーム家だったので、彼らはこういったことが好きなのかもしれない。
リフォーム計画はこの2人が中心となりそうだ。
「ふふ、素敵なリフォームになりそうだね」
『そうだね。グリムが見たらひっくり返るかもしれない』
「オレのギャラは寄付してやんないけど……グリムが戻ってきたら、ふたりに学食でスペシャルランチくらいはオゴッてやるよ」
「だな。カフェラテとデザートもつけてやる!」
「楽しみにしてる。みんな、ありがとう」
1年生たちの会話にグリムがちらほらと登場していることから、明るい空気になったものの引っかかっている様子なのが伺える。
どうすることもできないが、きっとそのうち戻って来るだろう。そう考え全員が今後に意識を向けた。