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Short Episode

「うわぁ!今年もいっぱい笹が飾ってあるね」

ゆったりしたメロディの流れるロビーには短冊のくくりつけられた巨大な笹が飾られ、空調から送られる風に短冊が揺られている。
その様相にロビーとの場違い感も忘れて俺も少し感動してしまう。

「こうやって見ると壮観だな」

2年の歳月がたって様変わりしたロビーの季節風物詩らしい、いやもう七夕はとっくにすぎているんだが…まぁいいか。
こうやってじっくり見るのは初めてのように思う、そんな俺の心中を察したのか、隣にいたマトイはくすりと笑って飾られている笹を見た。

「フィスはいつも色んなところ回ってるからね
あ、そうだ!フィス
この笹なんで飾られてるか知ってる?」

「七夕だから…だろう?」

「なんだ…知ってたんだ…残念」

これでも地球人だから…という言葉を飲み込んでマトイの言葉に頷く。

「地球の文化で一年に一度織姫と彦星が出会うことの出来る日…と日本という国では解釈されているが
実は二度と会うことが出来ないという解釈もあるらしいぞ」

「え…そんなの悲しいよ…一年に一度しか会えないのだって悲しいのに…」

悲しそうな顔で笹飾りを見るマトイの頭に手を置き、ぽんぽんと軽く2回叩く。

「そうだな…悲しいのかもしれないな」

「フィスは違うの?」

「俺は…たとえその後二度と会えなくなったとしても、出会えたことを大切に思う…」

いつ別れが来るかわからないこの戦いの日々で1番に思うのはそれだった。
1度はダーカーに侵食され身を滅ぼしかけたこともあってか、さらにその思いは強くなったように思う。
実際は1度だけではないのだが……。

「そっか、フィスは悲しくないんだね」

「だが、寂しくないわけじゃない」

「そう……だね」

マトイの脳裏には誰が思い浮かんだのだろうか……。
そんな詮索もほどほどに【ご自由にお書き下さい】と書かれた板に括られている短冊を手に取る。

「…俺も短冊に願いでも書いてみるか」

「い、いきなり話変えちゃうんだね…
でも、うん…私も書こうかな
そうだ!フィスはなんて書く?私はね」

「「仮面を取り戻す」…ってもう!
フィス、お願いかぶってるよ」

むうっと頬をふくらませ見上げるマトイに俺は吹き出しそうなるのをこらえる。

『アークスとしての俺』はマトイの表情に吹き出したりはしないが……
思わず緩んだ俺の頬を、マトイは不貞腐れた様子でつついた。
地味に痛いなこれ。


マトイとこの話をしていると気は合いそうにないダークファルスのアイツともこの際仲良くなれる気がしてしまう。

「1人より2人、2人より3人…だ」

「要は1人でお願いするより2人でお願いした方が叶いやすいってこと?」

「事実はどうかわからないが
願掛けとしては悪くないだろう?」

首を傾げるマトイにひとつ頷いてヒラヒラと短冊を揺らすと、マトイは自分の短冊を見た。

「んーそうだね、あ…でもあんまりほかの人に見られるのはなぁ」

「俺が後で高い位置にかけておく」

「いいの?ありがとう」

「あぁ、ついでに言うとだが
カフェの方で七夕メニューが出ているそうだ
イオたちと食べてくるといい」

「ほんと?教えてくれてありがとうフィス
あなたは行かないの?」

「あぁ、これから少しタイムアタック巡りを…」

「相変わらずだね
でも無理したらシャオに怒られるから
無茶しちゃダメだよ」

「マトイもな」

「あ、それはずるい」

「ははっ」

「ふふっ」

「おー、お二人さん仲良さそうに笑ってるとこ悪いんだけど…」

「あ、アフィン!?あのね、これはそういう事じゃなくて…ええと」

「アフィン丁度いいところに
これからガンナーでタイムアタック巡りしようと思っているんだが一緒にどうだ?」

「げ!ガンナー2人でタイムアタックとか頭いかれてるぜ相棒!」

「そう言われるだろうと思って威力高めの武器にしておいた」

「そういう問題じゃねーっての!」

「2人とも仲良いね」

「なんだよーちょっとからかっただけだぜ」

「?」

「え?もしかしてマジで俺引き連れてやるつもりだったのかよ!!」

「2日前から計画していたんだが」

「俺完全に力不足!!!」

「大丈夫だアフィンはフォローに回ってくれればいい」

「フォローに入れたらこんなこと言わねーよーーー!」

「ふふ、2人とも頑張ってね」

「あぁ」

「いや止めてくれるもんだろ普通はーーーーー!」

「ほら行くぞ、文句はあとから聞いてやる」

「文句言われるくらいなら最初からするなーーーー!
俺はお前らと違ってただの一般アークスなんだからなーーー!!!」

「ほら行くぞ」

「ぐえぇっ!引っ張るなよー!」

そんなこんなで七夕の緩やかな音楽に似つかわしくない悲鳴とともに1夜がすぎていくのだった。


fin
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