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Episode1 ずっとこの日を待っていた


ずっとずっと昔だ。
よく…俺はうなされることがあった。

内容はあまり覚えていないが。
とても良くない夢だったのは覚えている……。
そうじゃなければうなされないだろう。

ただ…その夢のあと決まって【そこ】には人が居た。

姿も顔も声も思い出せないのに、
それは異常なまでに記憶に残った。

“「ずっと…待っている」”

その言葉が……声すら思い出せないはずなのに……何故か頭の中に浮かぶ。

不思議で不思議でしょうがない夢。

それをまた……また見たのだ……。

今……この瞬間……この場所で。

「待ってくれ!お前は一体何者なんだ!」

もう何回言ったか分からない同じ言葉を俺は紡ぐ。

“「それはもうすぐ……分かる」”

「っ!!!」

答えられることのなかった言葉が今……紡がれる。

振り向いた【ひと】は聡明そうな女性だった。

その表情に……微かに感じる懐かしさに、
俺は音として出せない言葉を飲み込んだ。

「覚える……覚えるから……な……その顔……絶対に……」

白く染まっていく景色の中でその女性はかすかに微笑んだ気がした。


「っ!はぁっ!」

つぅ……と額から汗が流れ落ちる。
久々とはいえ昔は見慣れていたはずの夢に耐性が落ちていたのか俺は汗だくだった。

開けっ放しの窓から外気が流れ込み身震いする。

「……何時だ……今」

ゆっくり体を起こしながら壁にかけていた時計を見る。
時間はあと10分ほどで明日の時間を表すところだった。
メディカルセンターに寄ってからの事は正直いってぼんやりとしか覚えていない。
色々とありすぎて疲れたのだろう……。
体の疲れならなんとかなるものの、精神的な疲れはなかなか取れないものだ。

「……一日が過ぎるのはあっという間だったな」

思い出し疲れという物だろうか。
どっと疲れが押し寄せ、俺はため息をついた。

ルームの外から見える景色に俺はアークスになったんだと自覚する。

時間は早い、しかし眠い……という訳でもない
そう考えた俺はロビーに向かおうと足を進めた。
ふと聡明そうな女性の顔が浮かび、俺は思わず足を止める。

「……そう言えば『もうすぐ分かる』と言っていたな」

分かるとは何なのか、あの女性は一体誰なのか…………。

いまだによく分からないことだらけだが進むしかない。

そう思いながらロビーへと足を踏み入れた。



「……おかしい、ショップエリアにも人っ子一人居ないじゃないか」

静まり返ったショップエリアに1人自分の声が響く。

“『わたしは望む、わたしと貴方が共に皆に知られぬ事を』”

不意に響いた声に俺は辺りを見渡した、頭の中にはっきり響くその声に何故か今まで思い出せなかったあの夢とかぶる。

「お前か……俺を呼んでいたのは」

シティ近くにあるシップのショップエリアのモニュメント近くにその女性は居た。

“「わたしは謝罪する、あのような方法で貴方を此処に呼んだことを」”

「気にするな、事情があるんだろう」

俺が肩を竦めてみせると女性はどこかほっとしたような顔をする。

“『わたしは感謝する』”

「変わった話し方するんだな」

“『理由がある、今は……』”

「話せないんだな、分かった」

“『感謝する』”

「何となく……だが言いたいことはわかるからな」

そう、あくまで大体だ、確実にわかるわけじゃない。
しかし不思議と大まかにだが、この女性の言っている言葉の意味は理解出来た。

俺もあまり言葉巧みな方ではないからだろうか。

すると彼女は2、3度口を開く。
次に彼女からでてきた言葉は頭ではなく耳に入ってきた。

「……待っていた」
「否、この表現は認識の相違がある
待たせてしまった、だろうか」
「わたしの名は……シオン」
「わたしの言葉が貴方の信用を得るために幾許かの時間を要することは理解している」
「それでもどうか、聞き届けて欲しい
無限にも等しい思考の末私が見出した事象を」
「私は観測するだけの存在
貴方への干渉は行わない、行えない」
「ただ動かなければ道は潰える」
「故に私は示す
あらゆる偶然を演算し、計算しここに表す」
「遇時を拾い集め、必然と為す
そのものをマターボードという」
「私は観測するだけの存在
貴方を導く役割を持たない
だがマターボードは貴方を導くだろう」
「……わたしの後悔が示した道が指針なきときの導となることを願う」
「未だ信用も信頼も得られずと推測する
貴方のその思考は正しく正常である
私もそれを、妥当と判断する」
「私はそれでもあなたを信じている」
「私は貴方の空虚なる友
どこにでも居るし、どこにもいない
質問はいつでも受け入れよう」

流れるように話終えると少しのノイズと共に掻き消えたシオン。

ポーンという時報が端末から聞こえたのはすぐあとの事だった。

質問する暇すら与えてくれなかったと気づいたのはそれからしばらく経ってからだった。



人工の空を横目に俺は昨日のダーカー事件に関して何となくであるが周りから聞き取りを始めていた。
そして今回のナベリウスのダーカー大量発生は異常であるという事。
そしてピンク色の髪の……いや紫だっただろうか……名前はなんだったか。
まぁいい、そいつが人が居たと言っていたこと
アークス以外だと研究者などが該当するがそいついわくそういうやつではないという。
一般人が紛れ込むことなど万が一にもないはずなのだが……。

そんなことを考えつつゼノや情報屋姉妹に会い、クエストに赴きダーカーを駆逐する日々が続き。
アークスになって7日が過ぎた頃……、
俺は再びロビーでシオンの声を聞いた。

「あなたに伝えるべきことがある
それはひとつの揺らぎである」
「因果が収束を見せている
一つの事象を生み出しつつある
その手で掴めるほどに」
「それは恐らく
運命という概念への冒涜だ」
「しかし、それこそが
わたしとわたしたちが渇望し
切望したことである」
「…わたしは謝罪する」
「曖昧な表現では貴方たちに伝わり難いことを理解せず、失念していた」
「思考を修正し、伝える
これはわたしから貴方たちへの依頼である」
「惑星ナベリウスに向かって欲しい」
「理由は答えない、答えられない
答えはあなたの未来にのみ存在する」
「私は観測するのみ
観測しか、出来ない」

相変わらず言葉を入れる隙もない。
ザリ……という音を頭の中で聞きながら表情一つ変えないシオンは景色に解けるように消えていった。
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