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Episode1 ずっとこの日を待っていた





薄い青の天井に満天の星が輝くアークスシップ。
そんなシップの居住区画にある寮でこれからアークスになるのであろう2人は黙々と持ち物や武器の確認をしていた。

「………」

「今日はついに修了試験の任務だな、相棒!」

緊張を隠せないのか上ずった声で1人が呼びかける。

呼びかけれた本人は少しめんどくさそうに振り向いた。

「…あぁ」

「ノリ悪いな!?」

やる気のない声に呼びかけた側のアフィンは思わずツッコミを入れる。
そんなセリフにも気にかけることはなく、呼びかけられた側の青年……フィスウルは黙々と準備を進めていた。

「悪い、少し考え事をしていた」

メイトの数を確認し終えたところで顔を上げたフィスウルが返事をする。
なかなか遅い返事だがアフィンはもう慣れてしまったのかひとつ頷くにとどまった。

昔はもっと返事が素早かったのに…というボヤキが聞こえるがフィスウルは聞かないふりをした。

「そっか、ところで相棒は戦闘経験あるか?」

「実践ではまだ…」

「お!それなら俺と一緒だな、俺たち初めてだからってナベリウスで練習させてもらえるらしいぜ」

「それが修了任務の…?」

終了任務達成条件は指定場所まで帰還することだったため戦闘が主ではないと思っていたフィスウルだったが、戦闘が入るのであったら念の為…と武器をソードからパルチザンに変える。
広範囲攻撃を得意とするパルチザンはフィスウルのお気に入りの武器のひとつであった。

「そっから試験スタートってわけじゃないだろうけど、どうだろうなー
モニターで戦闘状況とか見てるのかな?
まぁいっか、早く準備しちまおうぜ!」

アフィンは自分で納得したのか1人で頷き準備を進める。

先に準備の終わっていたフィスウルはそんなアフィンに「準備が遅い」と一言投げかけるのであった。


―――惑星ナベリウス


「ここがナベリウスかー!あっち見てもこっち見ても緑ばっかでなんかワクワクするな!」

惑星ナベリウスに降り立った2人は普段見ることの出来ない広大な緑に視線を取られる。
鳥型の原生種などもチラホラ見え、非常に澄んだ空気は未開拓と言われるだけのことはあるな、とフィスウルはアフィンに負けず劣らず好奇心に目を光らせていた。

「そうだな、空気が澄んでいて昼寝したくなる」

「おー、いいな!それ!…まぁ原生種が攻撃してこなければだけどさ」

ナベリウスは比較的危険度の少ない星ではあるが気を抜けば原生種にフルボッコ……。
なんてことも少なくないと聞いていたフィスウルは緩んでいた気を引き締めた。

そして返事をしつつちらりと先の道を見た瞬間、ぶれるように視界が動く。
砂嵐の混じったモニターのような視界の中に人がいる……。
その姿は―――

「そうだな…………………………」

「おーい、立ったまま寝るなー」

「っ!」

「あ、起きた」

「う……またか」

「どうしたんだよ相棒、今日変だぞ」

意識が浮上したのか頭を抑えて唸るフィスウルにアフィンは心配そうに声をかける。
今日の内、もう既に5回も同じように意識の喪失が起こっている……。
すぐに目が覚めるのだがもしこれが戦闘中であれば大きな隙となるだろう。

「どうしてか途中途中で意識が途切れるんだ…一体どうなってる……」

「まじかよ後でメディカルセンター直行じゃん」

「……メディカルセンターは遠慮したいな」

真面目に心配しているアフィンの横でメディカルセンターということに渋い顔をするフィスウル。
昔から医療系の施設はどうしても苦手意識が強いと言っていたのをアフィンは思い出した。

「だーめーでーす、原因がわからなくてもちゃんと行くこと」

「わかった、わかった」

強めに指をさされたフィスウルはアフィンの押しに強く反論出来ずにただ頷くばかり。
そんなフィスウルの様子に満足げに笑みを浮かべたアフィンは先程の緊張もどこへやら……
テンションも高く先に進んでいく。

「それじゃーいくぞー!頑張るぞー!
原生種は来ないでくれー!」

「それだと任務にならないと思うが……」

「いいんだよいいんだよほら行こうぜ!」

アフィンの言葉に苦笑いを浮かべつつフィスウルもこの任務が何事もなければと思うのだった。




「あ!あそこにいるの原生種だよな」

「そうだな、確か……ザウータンだったはず」

完璧な二足歩行とは言わないものの両手を器用に使って水を飲む姿に2人は興味の目を向ける。
ザウータンもその視線に気がついたのか二人を見返すと威嚇のポーズをとった。
その姿を見てフィスウルは少し眉根を寄せる。

「さすが相棒……てかさ、なんか近寄ってきてないか?あいつ」

「きっと縄張りに入ってきた俺たちを敵と認識したんだろう」

「でしょうねー!仲良くしましょうっていう気配じゃねーもん!」

「仕方ない、戦うぞアフィン、援護を頼む」

「えぇー!まじで戦うのかよ!」

「文句は言うな殴り返せば済む話だ」

「簡単に言ってくれるなよー!
ていうか相棒武器使えよ!!」

慌ててザウータンの攻撃を避けるアフィンにしれっと殴り返せば済む……と、こともなげに話すフィスウル。
そんな彼はと言えば襲いかかってきたザウータンの首根っこを掴みぶん投げ掴んではぶん投げ時には殴って応戦していた。
そのフィスウルの姿にアフィンは絶句しつつ威嚇射撃で応戦していくのだった。



「ふう……何とかどっかいってくれたな」

「意外としぶとかったな」

「いやほんと呑気だな相棒……」

「ダーカーと戦うのにザウータンで手間取っていたら話にならないだろ」

パタパタと手を払うフィスウルの姿がもう既に歴戦の猛者のような風格を感じるのは気のせいではない……そうアフィンは思うのだった。

「確かにそうだけどさ……
ここがダーカーがいない安全な星でよかったぜ!
なぁ!そうだろ相棒!」

「あぁわかったから先に行きすぎるな!襲われたらどうする!
いくらダーカーがいないとはいえ……?
いや……ダーカーが……いない?…………!」

フィスウルは何故か自分の言葉に違和感を覚え立ち止まる。
何かが引っかかる……しかしその何かが分からず顔を顰めた。
そして再び砂嵐のような視界。
それは今までの静止画のようなものではなく
今いるこの場所で、謎の異形たちが際限なく現れる映像。

ハッとしたフィスウルは慌ててアフィンの方を見る。
そこはちょうど謎の異形たちが現れるエリアだった。

「おーい、早くしろってー」

立ち止まったフィスウルを訝しんだアフィンは先に進もうと問いかける。
しかしフィスウルの表情は険しい。
アフィンが少し急かすように言葉を発した直後だった。

突如警報が鳴り響き2人は体を硬直させる。
警報とともに鳴り響くオペレーターの言葉にフィスウルは自然と武器に手をやる。

「アフィン!!!そこからすぐに離れろ!今すぐに!!こっちに来い!」

このままでは例の異形たちがアフィンにまっさきに狙いをつけるだろうと思ったフィスウルは慌ててアフィンの腕を引っ張り立っていた地点から離れさせる。

「はぁ?どうしたんだよ相棒、そんなに慌ててさ…………っ!相棒!あれ!」

緊急事態発生の警報に驚きつつもフィスウルがなぜそこまで慌てるのか理解しきれていないアフィンは首をかしげもう一度自分のいた場所を見た瞬間であった。

黒いフォトン……それは闇属性などというチンケな言葉では表しきれない禍々しいモノ。
それはまるでじわじわとその空間を侵食するように広がり、一体の生き物とも呼べぬ何かを生み出した。

一体また一体と地面から這い出すかのように現れる黒い生物ともつかないモノは、おぞましいオーラを放ちながら2人にジリジリと近寄っていく。

フィスウルはなるべくすぐに離れられるようにと一定の距離を置いて後ろに下がっていた。

「なんだよ……なんにも無いところから真っ黒いやつが……フォトンも禍々しいし……一体なんなんだこいつら」

未だ警報は鳴り響く、オペレーターの口から紡がれる最優先命令コードの言葉にフィスウルは救援が難しくなることを察した。
ライゲンからこの手の指示が飛ぶと支援や救援はなかなか望めないことを聞いていたからだ。


「アフィン!援護を頼む!あいつらはダーカーだ!」

「なん……で、なんでだよ!ここにダーカーはいないはずだろ!」

アフィンの悲痛な叫び声が響く、そんな様子を傍目にフィスウルは呟いた。

「むしろダーカーがいない安全な星なんてこの宇宙に存在するのか?
……と、そんなこと言ってる場合じゃなさそうだな」

「うっ……そこらじゅうからどんどん出てきてるぞ!」

2人がそう話しているあいだにも次々とダーカーは現れる。
ピリリと張り詰めた緊張を振り払うようにフィスウルはパルチザンを握り直した。

「星が、生物がそこに存在する限りそれを喰らい尽くす存在……か……俺たちでどれくらい戦えるんだろうな」

「っ……アークスにもなってないのに死ぬなんてゴメンだぞ!」

半ば八つ当たりのように叫ぶアフィンも自分の武器を構えて応戦の構えを見せる。

「分かってるさ、まずは後ろのやつらだ
ある程度道ができたら駆け抜けるぞ!安全そうな場所まで!」

「お、おうっ!」

そうしてダーカーと戦いながらの帰還を余儀なくされた2人なのであった。





「……はぁ、はぁ…………」

「何とかなったか……?」

ちらりと後ろを振り向けば未だに増え続けるダーカーに流石にうんざりしたのかため息をこぼすフィスウル。
ほぼパニック状態のアフィンは涙目になりながらダーカーに向けて銃を構えた。

「いやまだだ!ちくしょう!なんでこんなにいるんだよ!一体何が目的なんだよ!」

「声のないやつに聞いたところで無駄だろうが……ちっ……モノメイトもあと三つしかないな」

アイテムパレットを確認したフィスウルは苦い顔でつぶやく。
逃げながらダーカーによって傷を負ったほかの研修生を助けるために広範囲のアルトマイザーとムーンは既に切れ。
体力に問題のあるアフィンをかばいながらの戦闘で既にギリギリの状態だった。

中には助けられずに殺されてしまった者達もいる。

「まじかよ!くっそ……」

ギリッと歯を食いしばるアフィン、フィスウルは再び武器を構えた瞬間だった。

「いやーおっそろしいくらいドンピシャ
悠長なエコー置いてきて正解だったわ」

後ろから打ち込まれる複数の弾。
フォトンの性質からアフィンのものでは無いとすぐに気づきフィスウルは振り向いた。

そこに居たのは赤毛の青年アークスらしき人物。

アフィンはその姿を見ると喜びの表情を浮かべたがフィスウルは青年の顔を見て再びダーカーの方を見る。

「先輩!救援に来てくれたんですね!」

「あーうん、思ったより数いるな、これ
正直すっげー予想外」

頭を掻きながら困った様子もなくそう口にする青年アークスにアフィンは疑問の表情を浮かべる。

「え、あの……先輩助けにに来てくれたんじゃ……?」

「あー、だから助けの助けを呼んどいた
合流地点はこの先だから突っ切るぞ」

指揮ほど逃げてきた道をダーカーを倒しながら進めと言われてアフィンは肩を落としたその横で、フィスウルはパルチザンにフォトンを纏わせる。

「アフィン、諦めろ
今アークス全員がナベリウスにダーカー殲滅の為駆り出されてるんだからな」

「えーーー!ってことはまた戦うのかよ!」

さっきまで影でコソコソ様子見ながら戦っていたくせにとフィスウルは軽く青筋を立てる
1番ダーカーと戦闘を重ねているおかげでフォトンによる浄化という名の殲滅も卒なくこなせるようになっていたのはアフィンのおかげなのだがどうも喜べない。


「よし今度はお前が前線に立てアフィン
さっきさんざん俺の事盾にした償いを今この場で償うといい」

「ちょ!レンジャーに前線任せようとすんなよ!大体ダーカーに先に突っ込んで行ったのお前じゃんか!」

グイグイとダーカーの群れにつき出そうとするフィスウルにアフィンは大慌てで逃げようとする。
言い合いになりそうな雰囲気を察して青年アークスは声をかけた。

「まぁまぁ落ち着け二人とも
というか、ダーカーと対戦済みなんだな」

「さっきまで逃げつつ応戦してたんですよむちゃくちゃ硬かった、マジで怖かった」

「お前達初陣にしては肝が座ってるな
特にそこの色黒のルーキーは見どころあるぜ…………って、んん?いや、ちょっと失礼
その顔…どっかで見たような……どこだったかな」

アークスと思しき青年は少しの間考えるような素振りを見せる。
しかし次の瞬間にはそんな雰囲気を微塵も見せずに正面を向いた。
フィスウルは自分の容姿に似ている者なんているのだろうかと思わず考えてしまう。
角の生えたヒューマンもどきはそこいらを探してもいないと思うのだが。

「ま、考えるのは後でいいか
それじゃ行くぜ、ルーキーども
きちんとついて来いよ」

「うぅ……なんで初陣からこんなことに……」

どこか悲壮なアフィンの声がフィスウルの耳に届く。

「そう悲観するなよルーキー
安心しとけって、二人とも俺が守ってやるからさ……ってお前達戦えるから別に心配いらないか」

「ちょ!酷くないすか先輩!
俺たち結構ヘトヘトなんですよ!」

冗談を言い返せるならまだ大丈夫だと独りごちるフィスウルはふと青年アークスに視線を戻す。

「そうだアークスの先輩、俺の持ちメイト3つしかないんだが、そっちはどれくらい持ってる」

「ん?俺は持ってない!まさかここまで数がいるとは思ってなかったからな
まぁ俺は強いからなんとかなるさ」

そういう問題じゃないとフィスウルは顔を顰めてこめかみを抑える。
まぁそれだけ自信があるなら仕方がないと無理やり納得させようとしていた。

「っ…………」

「あ、あのさ、一応俺後衛支援に務めるから……な?」

おずおずと話しかけるアフィンにフィスウルは構わないと首を振った。

「仕方がないか」

「大丈夫だ、さっきも言ったけど俺が2人を守ってやる」

「それは心強い」

「よし……生きて帰ろう」

「アフィン、フラグ立てるんじゃない」

「フラグってなんだ?」

「さぁ?」

「まぁいいか……」

フィスウルは内心不安になりながらも先に進むことにしたのだった。

以外にも現役が1人増えると立ち回りも楽になって圧倒的に戦いやすくなり体力を無駄に削られることもなく中型ダーカーのあしらいも程々に合流地点間際まで進むことが出来た。
お世辞抜きにこの青年アークスは強いとフィスウルは尊敬の眼差しを向ける。

「うっわーここにも……どんだけいるんだよダーカー……」

そのアフィンの言葉通り、まだ目の前にはうっとおしくなる量のダーカーがいる。
フィスウルはマップを確認しながらアフィンに声をかけた。

「恐らくここで最後になるだろう
気を引き締めておけアフィン」

「分かってまーす
で、どうするんすか先輩」

「おう、最後の仕上げだ
ここいらの奴ブチ倒しておしまいにするぞ」

そう言って青年アークスが手を掲げると近くにいた機械らしき存在が前に進む。

突如機械が輝き一角獣のような姿になった。

「奥の手だ!」

青年アークスの掛け声によりそれは一直線に駆け抜けていく。
姿が元に戻ると正面にいたダーカーたちはあとかたもなく消え去っていた。



……奥の手は最後まで取っておくものじゃないんだろうかというフィスウルのボヤキはアフィンの歓声によってかき消されるのだった。



「はい、おかえりなさい
あなた達も大丈夫?
怪我とかしてない?」

キャンプシップに無事帰還した3人は青年アークスの同伴者と見られる女性アークスにそう声をかけられた。

その女性アークスの言葉に青年アークスはムッとした表情を1度する。

「おいおい、俺がついてんだ、そんなヘマさせるかっての
改めて…俺はゼノっていうんだ。
こっちのうるさいのがエコー」

「よろしくね
あと、うるさくないからね」

“うるさい”という言葉が引っかかったのかすぐさま訂正に入ったエコーに後ろでゼノが若干ニヤつく。
そんな姿を見ながらもフィスウルはアフィンに視線を向けた。
自己紹介には自己紹介で返すのがマナー、
アフィンもそれに気づいてゼノとエコーに向き直った。

「あ、俺アフィンっていいます」

「俺はフィスウルだ」

「俺たちアークスになったばっかで何が何だかわからなくて……」

「分かるのは今回出るはずのない惑星でダーカー出現し、対処することとなったことくらいか……」

今回のダーカーの大発生で同じく終了任務を受けていた何人かが帰らぬ人となったのはキャンプシップについてからの連絡で知った2人は重い顔をする。
助けられずに見捨てざる負えなかった者もいたのは事実だった。

「いーんだよ、細かいことは考えなくて、そういうのは上の仕事だ。
あるいは、自分で調べろ。
さっき出てきたのがフィスウルが言ったダーカーで俺たちアークスの不倶戴天の敵、
俺から言えるのはそのくらいだ。
…まぁ、変な夢抱いたままじゃなくていきなり現実を知ることが出来たってのは逆に良かったと思うぜ」

「ちょっとゼノ!少しは考えてよ
この子達、いきなりの実践でショック受けてるのよ?」

ゼノのはっきりした言い分にエコーは食ってかかる。
エコーの優しさにアフィンとフィスウルの2人は少し心の荷が軽くなったような気がした。

「確かにな、あそこまで唐突に現れるものだとは思っていなかった
もう少し周りの気配に気を配るべきだったと思っている」

今思い返せば反省点に切りがないと言葉を続けたフィスウルにエコーはぽかんとした様子で問いかける。

「あ、あら?貴方は意外と冷静なのね」

「うちの相棒はだいたいこんな感じなので……」

もう慣れてしまったのかアフィンは遠い目をしながらフィスウルを見た。

「まぁ、どうあれダーカーと戦うって現実は変わらねーよ
だったら早めに知っておいた方がいい
その方が長生きできるからな」

ゼノの言葉は長い間ダーカー戦ったからこその重みがある。
そんな言葉を聞きながらアフィンはぎゅっと唇を噛み締めた。

「おらおら、そんな辛気くさい顔するな
特にアフィン、お前らは生きてる、生還したんだぞ
終了任務達成、万々歳じゃねぇか!」

「……はい」

「そう、それでいいぜアフィン
納得出来なくても、頷く気力があれば大抵の事はなんとかなるさ」

「……」

「その悔しさを忘れるな諦めるな
忘れず、諦めずにいればいつかきっと、なんとかなる」

「……かっこいい事言ってるように聞こえるかもしれないけど
今の完全に受け売りだからね」

完全に今のカッコいい雰囲気を壊すエコーの一言に思わず吹き出しそうになるアフィン。
フィスウルはゼノの言葉が昔ライゲンから言われた言葉にそっくりであることに心なしか驚いていた。

「おいこらエコーばらすな!
いいんだよ、師匠の言葉は俺の言葉だ」

「勝手に格言作らないの
全く、昔から勝手ばかりしてあたしの苦労も少しは考えてよね」

「お前の遅刻癖は俺のせいじゃないだろ」

「う、うるさいゼノ!
ほら!もうすぐアークスシップにつくわよ!
こら!そこのルーキーくん2人組も笑ってないで準備しなさい!」

2人の掛け合いに笑らってしまいそうになるのをこらえながら。
ゼノの師匠とは一体誰なのだろうかとフィスウルは思いを馳せるのだった 。


―――アークスシップロビー

「さて、無事に戻ってきたことだしロビーでのんびりすっか」

「だめ!報告が先!」

うーんと背伸びをするゼノにエコーが一喝すると、ゼノは至極面倒くさそうに声を出す。
その様子はまるで子供のようだった。

「ハイハイわーってるよ
うっせぇなぁ……
ま、そんなわけでルーキーたち
俺がお守りしてやれるのはここまでだ
こうやって知り合ったのも何かの縁
何かあったら声掛けてくれ、んじゃまたな」

「頑張ってね」

2人との出会いは嵐のようだった。
いや今日起こった出来事そのものが嵐のようだった。
ライゲンに報告すれば間違いなく腹を抱えて笑うだろう。
そしてこう言うのだ……。
「よく生き残った」と……。

ちらりと、自分がアークスなるきっかけになったあの日を思い出す。

壮年の鋭い光を持つキャストアイを思い出し
珍しく顔が見たい……とフィスウルはどこか寂しく思うのだった。





「それにしても、今日は散々だったなぁ嵐のような出来事っつーか……」

「そうだとしても生きて帰ってきたのだからダーカーと戦える実力があると判断されるのなら好都合だろう」

「そういう前向き思考羨ましいよ」

アフィンが肩を竦めて笑う。
前向きに物事を考えていけばいい方向に向かうと常に思っているフィスウルはひとつ頷いた。

「アークスとしての本来の仕事だからな」

「そうだったな」

「それより、これからどうする」

「俺は……そうだな色々あったしロビー見て回って頭冷やしてくるよ
色んなことあって俺……頭ん中ぐっちゃぐちゃでさ」

えへへと手を頭の後ろにやり、笑顔を苦笑いに変えたアフィンにフィスウルは一瞬悲しそうとも取れる表情をする。
アフィンは今までに見たことの無いその表情に驚くが、本人は自分がそんな表情をしていたことなど微塵も分かっていないようで呑気にロビーを見渡していた。

「俺もそうしようか……」

「相棒はメディカルセンター行き!
ナベリウスにいた時なんか変だったんだろ?
ここにはメディカルセンターあるはずだからさ!」

アフィンはメディカルセンターの方向を指さしニコッと笑う。
それはそれは満面の笑みで。

「……」

「ほら拗ねるなって早く行ってこいよ」

「心配しすぎだ」

子供のように拗ねるフィスウルにアフィンは思わず吹き出し、フィスウルはアフィンを思い切り睨みつけた。
アフィンはそんなフィスウルに再び肩をすくめると真剣な顔をする。

「いいから行く!
俺たち2人の中でダーカーと1番戦ったのもお前だろ?
体に異常があるといけないしちゃんと見とけって」

「そう、いうなら……」

渋々と言った形でメディカルセンターに向かう姿を見送るアフィンは先程まで戦っていたフィスウルの姿を思い出す。

冷静沈着で隙がなく……それでいて苛烈で容赦のない戦い方は見ている方に若干の違和感をもたらした。

「……大丈夫……なんだよな?」

あの時の殺気がどこか異常に感じたのは気のせいであってほしいと切に思いながらアフィンはロビーを歩くのだった。

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