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Short Episode

「っは!」

砂をまきあげながら浜辺を走り抜ける2人の子供の姿が波の緩い水面に映る。

時折砂に足を取られて少年は身体を傾けるが、左手で掴んだ少女の手は絶対に離すまいと握りしめられていた。

「もういいよ……もういいんだよ」

少女声は走り続けているとは思えない軽やかさだ。
しかしその声には切々とした感情が乗っていた。

言葉の話せない少年は大きく首を振った。
少年は進んできた道を振り返る。
敵の迫り来る背後を見て少女の腕を強く引っ張った。

共に行こう、と

「……うん」

凛と響いた少女の声に少年は満面の笑みを浮かべる。


この会話が最後の会話になるとも知らず……………。








「……………」

「……なぁ、坊ちゃんここで何してんねん」

「………ぅ!……」

ピコりと言う音が似合いそうな勢いで聞き取れる言葉を放つ生き物と出会い、少年は驚いて後ずさる。
ガツンと冷たい岩の感触と痛みが背中に伝わり顔を顰めた。

「あ!ワイは敵やないからな!勘違いせんといてや!」

小さい体と巻貝の頭、自分と違う姿のその生き物に少年は恐る恐る近づいていく。

「名前なんて言うん?」

「……な……ぁ……え?」

喉に力を入れて必死に声を出そうとする。
少年には名前はない。
あるのはやたらと長い認識番号だけだ。

少年は思い出したくなさそうな顔で首を振る。
もう治ったはずの腹の中がじくりと痛んだ気がした。




あの子を助けられなかった。





ずんとのしかかってくるその事実に思わず少年は体を丸めるように膝を抱えた。

悔しさとも悲しさともつかない感情に唇をかみ締める。

「なんや、辛いことでもあったん?」

甲高い声で問いかけてくる貝頭のなんと脳天気なことか。
少年は少しだけ湧いてきた苛立ちを喉の奥に押し込めて立ち上がる。

「ワイも連れてってーや
ここいらヤバいやつがぎょーさんおってすすめんし」

ポテポテ着いてくる貝頭の小さな生き物に少年はため息をつく。

どうせこいつも居なくなるのだろう。

そんなことを思いながら。


おまけ


「なぁー、なぁーー、名前なんて呼べばええんや?」

「……………」

「なんでもいいて!?そんなんなんでもええわけないやろ!
そや!ワイが名前つけたるわ!」

「…………!?」

「名前付けられるのかやて?
ワイこれでも頭いいんやで!
せやなぁ、この星はうぉぱるゆーらしいからウルでどうや?」

「…………………………」

「最初と最後とっただけ…………ってまぁそうやけど。
呼びやすい方がええやん
なぁ!ウル!」

「……」

「ならお前はパル……って誰がパルや!わいにはカブラカンチュー名前が……ってカブってゆうなや!
ウル……あんなぁ……省略していい名前と悪い名前があるんやで……」

「……ふふ」

「おっ!ウルも笑えるんやなぁ」

「……?」

「なんだか面白くなった……?なんで面白いのか分からへんけど楽しい気分ならええと思うで」

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