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Short Episode



「突然だけど頼みがあるの!お願い聞いてくれないかしら」




最近ハマりにハマっている緑茶と水羊羹を両手に持ち、俺はそう言ってきた女性アークスの方を向いた。

「…これ、食べてからでいいなら構わないが…」

「あ!ごめんなさい!おやつの時間だものね…守護輝士だっておやつ食べるものね…」

どこか意外そうな表情を向けられ、俺は内心何かおかしいことを言っただろうかと考えながら席に着く。

「相席いいかしら」

「あぁ、構わない」

「ありがとう」

隣に座った女性アークスは別に何かを頼むわけでもなく、マジマジと俺の手元にある食べ物を見ている。

まだフランカ'sカフェは春の様式で、テラス席に座っている俺の元に一枚一枚桜の花びらが落ちてきていた。

「あら、凄い、水羊羹に桜が乗ったわ」

女性アークスの声に視線を戻すと確かに水羊羹の上に桜の花びらが1枚乗っていた。

まさかと思いフランカの方に視線を向けると何やら意味深な顔でサムズアップをしている。

…何か勘違いしているのだろう
まぁ、華やかだから良しとする。

俺は無言で羊羹を小さく切り分け口に運ぶ。
誰かに食事の様子を見られるのは慣れていないせいで気になりはするがそれはそれとして羊羹が美味い。
緑茶に口をつけ一息つくと女性アークスはクスッと笑った。

「意外と可愛い食べ方なのね」

「…そうか?」

アフィンにせこい食べ方だと言われたことはあるが可愛食べ方だと言われたのは初めてだ。
いや、前にマトイから似たようなことを言われた気がする。

「私の名前はマキっていうの、あ、食べながらでいいわ、私の独り言みたいなものだと思ってちょうだい
お願いの内容も今言ってしまって構わないかしら?」

「あぁ」

「今度のイベント、イースターでしょう?
私、シーと一緒にイベントの企画や準備を担当しているうちの一人なんだけど
今年は他の子がいろんなところに駆り出されてて人手が足りなくて
それでイースター用の卵が足りないの」

「わざわざ俺に頼む程か」

「えぇ、とんでもなく足りないの
それはもうニャウの手もかりたいくらいよ」

頭を抱えるマキの様子を見て俺はなるほどと納得した。


「なるほど、分かった
俺に出来ることがあるなら協力しよう」

「本当!?ありがとう!
それで詳しい内容なんだけれど…」





後日


「相棒…あいぼーう、ほんとにここで合ってるのかー?」

「わー、凄いね
ここ、ラッピーフィーバーのボーナスキーで使われてるとこでしょ?」

「エンペラッピーの巣らしいな」

巨大な木のウロを通りそこそこ広い場所へ出る。

目的は卵だが、どうやら特殊な行動を行わなければ手に入らないらしいとマキから聞いた

その方法が……

「ほんとにこれで卵を貰えんの?
ただ抱きしめられてるだけじゃないかこれ??
それとも俺らが卵にされるの??」

「うーん、どうなんだろうねーふふふ
ふわふわだなぁー
ふぁ…眠くなってきちゃう」

「………」

「相棒ー寝るなー寝るんじゃなーい…」

「寝てはいない、とりあえずアプローチとしてはこれで合っているらしい
あとはフォトンを分ければいいようだ」

「おーー、よく理解できるな」

「えっとー、こうかな?」


キュイキュイとエンペラッピー立ちの喜ぶ声が聞こえる。

どうやらエンペラッピーの卵は繁殖と言うよりはアイテムを落とすという認識のようだ、降りると足元に卵がゴロゴロと転がっていた。

「すごーい!これを全部運べばいいのかな」

「あぁ、これで足りるかはわからないが、試しに持って行ってみようか
足りなかったらまた来るが
いいだろうか、お前達」

俺の言葉に嬉しそうに声を上げるエンペラッピーをみてアフィンとマトイは顔をほころばせる。

「いいって言ってるみたいだな」

「それじゃあね、バイバイ」

こうしてイースター祭前のちょっとしたトラブルは解決したのだった。

と思っていたが……。


「あれ!?卵がない!!」

「嘘だろ!?」

「あぁ…どうやら、イースターにちなんで探してくれということらしいぞ」

「「うわぁ……」」


そうしてしばらくたまご探しに時間を費やすことになってしまった……。
今度はもっと人手を増やしていこう……。




「先日はありがとうございます
おかげで何とか数が足りました
お礼とは別に、なにか奢りますよ」

「別にそこまで気を使わなくてもいい」

「まぁまぁそう言わず」

「お、おい…」

遠慮しようとした俺を半ば無理やり席に座らせるマキ。

そんなマキはテーブルに何かを置いた。

「…これは?」

「今年のイースター祭期間限定のカップケーキよ
試作品をフランカさんから貰ったの、どうせなら守護輝士にもってね」

「…そうか」

イースターということもあって卵をモチーフにしつつカラフルに可愛らしいデザインだ。
昨年は確かプリンアラモードだった気がするな…。
あれは美味かった。

「さぁ、食べましょ?」

試しに1口
うん、美味い
これは好きな味だ。

「…美味い…な
ベリーの酸味が効いてるのか、後味もスッキリしていて飽きにくい」

イベント中は食べに行くか……。

「ふふ、喜んでくれたようで良かったわ
このカップケーキ今回私が提案したの
食べやすくて可愛いでしょ?」

褒めてと言わんばかりに表情を輝かせるマキにマトイを重ねてしまい思わず思い出し笑いをしてしまう。

「あ、あぁ…そうだな
とても可愛らしいデザインだと思う
女性受けもいいだろうな
…ただこれとは別にデコレーションがシンプルなタイプも用意するといいかもしれない
二種類あれば好みで手に取れるだろうからな」

「いいかもしれないわね!それ!
早速提案してくるわ!」

俺の提案に素直に頷き実行しようとするマキに、少し心配になる。
相手が俺だからなのかもとより信じやすいたちなのか。
俺がいえたことではないが、信じすぎるのも良くないものだ。

「……」

「ごめんなさい、あなたへのお礼のつもりだったんだけど、また助けられちゃったわ」

照れ気味に頬をかくマキに俺はどう返事をすればいいか一瞬迷う。
こういう女性からの食事の誘いなどはいつも断るようにしているのは、俺自身の言葉の拙さで相手の気分を損なわせたくないからなのだが。
気の合う相手等ならそうもならないのだろうが、どうにもほかの女性相手は緊張してしまう…。

「きにするな、カップケーキ…とても美味かったからな」

「そう?ふふ
貴方って甘いもの好きなの?」

「人並みにはな」

「へぇー、じゃあ今度どこかスイーツショップでも行かない?
もう1人の守護輝士、マトイちゃんも連れてさ」

「それならアフィンやユクリータたちも連れていきたいところだな」

嬉しそうに顔をほころばせたマキの姿に俺も思わず口角が上がる。
マトイたちだけじゃなくサラやイリス達も喜ぶはずだ、イオは遠慮しそうだがきっと強制連行されるだろうな……あぁ、ストラトスも入れてやらないと省かれたと嘆くだろうか……。
そんな話をするとマキは吹き出したように笑う。

「随分大人数になりそうねー」

「はは…そうだな」

アフィンが女子会になってしまったワンフロアを見て疲れた顔をするところまで想像出来てしまい思わず声を出して笑うと、マキは驚きを含んだ顔で俺を見た。

「あら、笑うと可愛いじゃない」

「からかうのはよしてくれ」

「からかってないわよー、ふふ」

う…別に何かをした訳では無いが、非常に恥ずかしい。
アークスになってからはあまり笑うことがなかったせいなのか、笑うと度々こういう反応をされる。
それにしても齢20を過ぎた男に可愛いという言葉は似合うのだろうか…?

「あ、フィス!ここに居たんだね」

「あぁ、マトイ…それとアフィンもいるのかちょうど良かった
来週あたりでも空きがあるか?二人とも」

至極どうでもい事を考えている時、離れた場所から聞こえた聞き馴染みのある声に俺は振り向いて声をかける。

「あ…俺なんか嫌な予感するからパース…」

何かを察して逃げ出そうとするアフィンをつかみ、マトイはにこやかに言葉を紡いだ。

「私もアフィン君も用事はないよ」

「いだだ…ちょ、ま…マトイー!言うなよー
どうせこいつの事だからケーキバイキングに行くって言うに決まってるし」

「分かってるじゃないか、来週行くぞ」

「うわ強制かよ…」

当たり前だ、善は急げ、いつ任務で出ずっぱりになるかわからんのだからな。
行ける時に行った方がいい。

「マキがいい場所を教えてくれるらしい」

「い、いきなりハードル上がっちゃったわね
でも自信あるわよ!どんと任せなさい」

「わー!ありがとうマキちゃん」

「どういたしましてマトイちゃん!」

「仲良いなぁ…」

「そうだな」

にこやかに談笑する2人を見ながら俺は少しぬるくなった紅茶を口に含んだ。

fin
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