バレンタインデート
その日、降谷は、久々に休日を取った。
先日、友人…気恥ずかしいが友人である赤井から、揃って出かけないかと誘われたからだ。
お互い捜査官だ。休みと言いつつ、連れて行かれるのは、きな臭いところだろうな。
降谷は、そんなふうに思っていた。
だが、約束の日、赤井は降谷を車に乗せ、冬の海岸へとやって来たのだった。
晴れてはいる。だが、冬の吹きっ晒しだ。めちゃくちゃ寒い。
「降谷くん」
赤井は自分のマフラーを降谷に巻いてくれた。
「ありがとう」
礼は言ったが、変な気分だった。
なんだか、赤井が優しい。
このところ連勤で疲れ気味の降谷を気遣ってる?だとしたら、随分と優しい。
「寒いな。もう春だというのに」
「暦の上での春ですから。体感では、二月が一番寒い気がします」
「あぁ。でも、やはり、空は春めいて見えるな」
赤井は晴れ渡った空を見上げた。降谷も一緒に見上げた。
真っ青な空が澄み切っていた。
「もう少し暖かくなったら、遠出してみないか?」
「どこに?」
「苺狩りというのが楽しいと坊やに聞いたんだ。実はまだ未経験でな」
「なるほど。僕に案内させてください」
降谷は履修済みだ。赤井を楽しませる事ができるだろう。
「苺狩りとバーベキューの両方楽しめる施設もありますよ。みんなで、行きましょうか」
「皆んな?」
「そちらのお仲間とか?最近、仕事ばかりでしょう?少しは日本を楽しんでは?」
日本に詰めている米国の捜査官達は、碌に観光もできてない。仕事とは言え、何の楽しみもなく働かせるのは気の毒だ。
「いや、そんなのは放っておけばいい」
赤井は実にドライに言い切った。
「来月は苺狩りに行こう、二人で」
「はぁ、良いですけど」
大人数は嫌いだものな。
降谷は、そう納得した。
「寒いな」
「でも、気持ちいいです」
振り返ると、二人の足跡が砂浜に残っていた。仲良く並んでるのを見ると、気恥ずかしい気持ちになった。
「降谷くん?」
赤井が降谷を呼ぶ。その声は親愛が含まれていた。
こんなに仲良くなるなんて。
降谷は不思議な気持ちで、赤井の顔を見つめた。
実に、良い男だ。手入れした美しさではなく、生きて来た人生が自信となって顔に現れている。降谷が赤井の歳になっても、こんな雰囲気を出せる気がきない。
良い男だな。
あんまり見つめるから、赤井が不思議そうに首を傾げた。
「ふふ、鼻が赤い」
寒さに鼻先が赤くなっていた。
「貴方、鼻が高いから」
「寒さに対応する為に高くなったんだ。その分、冷たい空気が体に入らず、体温が下がらない」
「では、そのハンサムな鼻は、体温調節の為でしかないと?」
「いや、勿論、周りをうっとりさせる為さ」
馬鹿な事を。
降谷は赤井の肩にドンとぶつかった。そして、二人で楽しく笑った。
海岸をゆっくり歩いた後は、降谷が知らないバルに連れて行ってもらった。
スペイン料理の店で、たまに音楽やフラメンコを楽しめるそうだ。残念ながら、今日はダンサーがお休みだった。だが、料理だけでも充分に楽しめる店だった。
「このお店、サラダにもオリーブオイルなんですね」
「スペイン人は、生のオリーブオイルはどれだけ摂っても太らないと言いはるんだ」
「へぇ、面白い」
赤井は運転手だからと酒を飲まなかった。降谷も、飲まなかった。だが、パエリアはものすごく美味だったし、炭酸水でも酔ったみたいな気分になれた。
思いがけず、良い休日になってしまったな。
降谷は、帰り道、送ってくれる車の中で、離れ難いな、とすら思ったくらいだ。
赤井は、わざわざ、玄関先まで送ってくれた。
なんだか、今日は、やけに紳士ぶるな。と思った。
もしかして、来月の苺狩りは降谷が紳士ぶる番だろうか。もちろん、完璧にもてなすつもりだが。
「ありがとうございました。とても、楽しかった」
「うん」
赤井は、柔らかく微笑んだ。滅多に見ないような優しい顔だった。あんまりにも素敵な笑顔だったから、降谷はうっかり見つめてしまい、そのままうっかりとキスされた。
キス…キス⁉︎
なんで?え?
混乱のうちに、赤井は降谷の頬を撫でて、またあの笑顔を見せたのだ。
「今日は、付き合ってくれてありがとう。おやすみ」
そして、混乱の降谷を残して、赤井は背中を向けた。
何が起こったのだ?何が?
降谷は平常心を取り戻そうと、腕時計に目やった。まだ、十時半だ。赤井と飲む時は、大体、日付を超えるのに、まだ二月十四日のまま。
そこで、ようやく気が付いたのだ。
「今日、バレンタインデー」
全く自分に関係ない日だったから、意識してなかった。今日は、恋人の日ではないか。
「赤井っ」
降谷は、エレベーターホールに向かう背中を呼び止めた。
赤井は振り返った。そのポケットに手を突っ込んで斜に振り返る仕草。見慣れた仕草なのに、ドキンと胸が高鳴った。
「こ、コーヒー、飲んで行きませんか?」
降谷のバレンタインデーは、夜の十時半に漸く始まったのだった。
先日、友人…気恥ずかしいが友人である赤井から、揃って出かけないかと誘われたからだ。
お互い捜査官だ。休みと言いつつ、連れて行かれるのは、きな臭いところだろうな。
降谷は、そんなふうに思っていた。
だが、約束の日、赤井は降谷を車に乗せ、冬の海岸へとやって来たのだった。
晴れてはいる。だが、冬の吹きっ晒しだ。めちゃくちゃ寒い。
「降谷くん」
赤井は自分のマフラーを降谷に巻いてくれた。
「ありがとう」
礼は言ったが、変な気分だった。
なんだか、赤井が優しい。
このところ連勤で疲れ気味の降谷を気遣ってる?だとしたら、随分と優しい。
「寒いな。もう春だというのに」
「暦の上での春ですから。体感では、二月が一番寒い気がします」
「あぁ。でも、やはり、空は春めいて見えるな」
赤井は晴れ渡った空を見上げた。降谷も一緒に見上げた。
真っ青な空が澄み切っていた。
「もう少し暖かくなったら、遠出してみないか?」
「どこに?」
「苺狩りというのが楽しいと坊やに聞いたんだ。実はまだ未経験でな」
「なるほど。僕に案内させてください」
降谷は履修済みだ。赤井を楽しませる事ができるだろう。
「苺狩りとバーベキューの両方楽しめる施設もありますよ。みんなで、行きましょうか」
「皆んな?」
「そちらのお仲間とか?最近、仕事ばかりでしょう?少しは日本を楽しんでは?」
日本に詰めている米国の捜査官達は、碌に観光もできてない。仕事とは言え、何の楽しみもなく働かせるのは気の毒だ。
「いや、そんなのは放っておけばいい」
赤井は実にドライに言い切った。
「来月は苺狩りに行こう、二人で」
「はぁ、良いですけど」
大人数は嫌いだものな。
降谷は、そう納得した。
「寒いな」
「でも、気持ちいいです」
振り返ると、二人の足跡が砂浜に残っていた。仲良く並んでるのを見ると、気恥ずかしい気持ちになった。
「降谷くん?」
赤井が降谷を呼ぶ。その声は親愛が含まれていた。
こんなに仲良くなるなんて。
降谷は不思議な気持ちで、赤井の顔を見つめた。
実に、良い男だ。手入れした美しさではなく、生きて来た人生が自信となって顔に現れている。降谷が赤井の歳になっても、こんな雰囲気を出せる気がきない。
良い男だな。
あんまり見つめるから、赤井が不思議そうに首を傾げた。
「ふふ、鼻が赤い」
寒さに鼻先が赤くなっていた。
「貴方、鼻が高いから」
「寒さに対応する為に高くなったんだ。その分、冷たい空気が体に入らず、体温が下がらない」
「では、そのハンサムな鼻は、体温調節の為でしかないと?」
「いや、勿論、周りをうっとりさせる為さ」
馬鹿な事を。
降谷は赤井の肩にドンとぶつかった。そして、二人で楽しく笑った。
海岸をゆっくり歩いた後は、降谷が知らないバルに連れて行ってもらった。
スペイン料理の店で、たまに音楽やフラメンコを楽しめるそうだ。残念ながら、今日はダンサーがお休みだった。だが、料理だけでも充分に楽しめる店だった。
「このお店、サラダにもオリーブオイルなんですね」
「スペイン人は、生のオリーブオイルはどれだけ摂っても太らないと言いはるんだ」
「へぇ、面白い」
赤井は運転手だからと酒を飲まなかった。降谷も、飲まなかった。だが、パエリアはものすごく美味だったし、炭酸水でも酔ったみたいな気分になれた。
思いがけず、良い休日になってしまったな。
降谷は、帰り道、送ってくれる車の中で、離れ難いな、とすら思ったくらいだ。
赤井は、わざわざ、玄関先まで送ってくれた。
なんだか、今日は、やけに紳士ぶるな。と思った。
もしかして、来月の苺狩りは降谷が紳士ぶる番だろうか。もちろん、完璧にもてなすつもりだが。
「ありがとうございました。とても、楽しかった」
「うん」
赤井は、柔らかく微笑んだ。滅多に見ないような優しい顔だった。あんまりにも素敵な笑顔だったから、降谷はうっかり見つめてしまい、そのままうっかりとキスされた。
キス…キス⁉︎
なんで?え?
混乱のうちに、赤井は降谷の頬を撫でて、またあの笑顔を見せたのだ。
「今日は、付き合ってくれてありがとう。おやすみ」
そして、混乱の降谷を残して、赤井は背中を向けた。
何が起こったのだ?何が?
降谷は平常心を取り戻そうと、腕時計に目やった。まだ、十時半だ。赤井と飲む時は、大体、日付を超えるのに、まだ二月十四日のまま。
そこで、ようやく気が付いたのだ。
「今日、バレンタインデー」
全く自分に関係ない日だったから、意識してなかった。今日は、恋人の日ではないか。
「赤井っ」
降谷は、エレベーターホールに向かう背中を呼び止めた。
赤井は振り返った。そのポケットに手を突っ込んで斜に振り返る仕草。見慣れた仕草なのに、ドキンと胸が高鳴った。
「こ、コーヒー、飲んで行きませんか?」
降谷のバレンタインデーは、夜の十時半に漸く始まったのだった。
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