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【第四十四争覇記録:于禁文則】

患う体は、最初は『悪い夢』だとしか思えなかった。

その程度に、“初期症状”はそれきりのもので、『記憶』を辿った際に反射的な防衛本能が働く程度のものだった。
だが、それゆえにこの『世界』の私は今までの世界線よりいっそう“心のない人間”となった。

恐怖により『世界』の至るところが『敵』に見え、『記憶』の中にいた人物は自身に害なす者だと思って行動した。
……これ以上、思考が闇に溺れないように。

鮑信は、私を“見つけなくて”よかったと思った。
曹操は、いつか私を見放す人間だと思った。
部下など、こんな自分のことを嫌って当然だと思った。

そんな私を見かねた曹操軍の王朗は、『記録者』の力を駆使しつつ、私の内なる恐慌を察して、少しずつ、ひっそりと闇を取り払おうとしてくれていた。
……無論、私は“貴方さえいなければ”と、そう思いながら。

王朗によればやはり自身の夢の量は異常であるらしく、
これからも、その“夢”に進歩があれば教えて欲しいと、私を突っぱねることなく優しくそう言った。
その時に、王朗が私に対して諭した言葉を今でも覚えている。


『于禁、人の夢が示唆するものは、“恐怖”だけではないのですよ』
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