DEAR MY SWEET FOOL
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口付けは、狂ったように繰り返された。角度を変えて何度も、何度も。
この瞬間を待っていたはずなのに、心が痛むのはなぜだろう。
瞳に滲む涙は酸欠の息苦しさからだけではない気がした。
無一郎はずっと怖い顔をしていて、そこには当然だが愛情なんて一欠片も感じない。
気が付くと、着ていた部屋着はいつの間にかファスナーをおろされ、ナイトブラもずらされて、あられもない格好にされていた。
露わになった胸元に手が触れる。いつもは冷たい無一郎の手が、今は信じられないくらい熱かった。
それから容赦なく胸を揉みしだかれて、美猫の唇からは意志に反して甘い吐息が漏れる。
程なくすると片方の手が離れる。かと思えば、無一郎がそこへ吸い付いて、美猫は堪らず背を仰け反らせた。
「随分感じやすいんだ?」
「無一郎⋯」
「何?」
「どうして、急に⋯こんなこと」
涙目で問う美猫を無一郎は冷めた瞳で見下ろして、冷たい声で言い放った。
「そういう気分なだけ」
分かっていたことではあったが、その言葉は美猫の心に深く突き刺さった。
「一宿一飯の恩義なんだろ?」
一宿一飯の恩義。確かにそれは、ここへ来た当初に美猫自身が口にした言葉だ。
だけど⋯⋯。
「大人しくしていれば、痛いことはしないよ。たくさん可愛がってあげる」
ゆっくりと細められた淡い碧色の瞳には、理解しがたい熱と狂気が宿っていて、ぞくりと背筋が粟立った。
今すぐ逃げ出したいのに、恐怖に絡め取らたみたいに身体が動かない。
なのに無一郎から目が離せない。その視線の先で、無一郎が素早く上衣を脱ぐ。
蒼白い窓明りに均整の取れたしなやかな体躯が照らし出される。
痩せ型だがしっかりと筋肉がついた肢体は美しく、それは無駄を削ぎ落とした野生の獣を思わせて、思わず息を呑んだ。
無一郎が顔に掛かる長い髪を無造作に掻き上げながら、ゆっくりと覆い被さってくる。
その姿は酷く妖艶で、抗い難い色香を放っていた。
熱を帯びた舌がゆっくりと首筋を這う。美猫はめいっぱい顔を逸して、涙の滲む瞳をぎゅっと閉じた。
一宿一飯の恩義⋯。そう言ったのは私だから。抵抗できない理由を必死に探す。
「力を抜きなよ」
無一郎が耳元で囁く。熱い吐息が耳に触れて、それだけでビクッと身体が強張った。
「そんなに僕が怖い?」
どこか悲しげなその呟きはごく小さくて、美猫の耳には届かなかった。
いいの⋯⋯これでいいの。大人しくしていれば、好きな人に抱いてもらえる。
ずっと夢見ていたことじゃない。必死に心の中で自らに言い聞かせる。
ーーほんとうに?
心の奥底からもう一人の自分が問い掛けてきて、美猫はハッとした。
これが本当に私の望みなの?ただ欲を満たすだけの愛のないセックス。
「や⋯⋯やだ、」
美猫は渾身の力で、無一郎の腕を逃れようともがいた。
「やだ、こんなのやだ⋯!放して、帰る⋯!!」
無一郎を好きになって十年以上もの月日、こんなことを望んでいたわけではない。
こういうことをするのであれば、きちんと愛されて、美猫だけを欲してほしいのだ。
ーーそれなのに。
「今さら逃がすわけないだろ」
冷酷な視線が美猫の心を突き刺した。
無一郎は必死に暴れる美猫をいとも容易く力でねじ伏せたのだ。
