DEAR MY SWEET FOOL
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無一郎を落とすために美猫は一世一代の作戦を立てた。
暫く無一郎の家に滞在し、その間に一気に落とす。
とはいえ、できるだけ迷惑は掛けたくない。その為にはお金が必要だと考えた。
日中は大学で勉学に勤しみつつ、夜はその美貌とスタイルを活かしてキャバクラで一生懸命働いた。
勉強が得意ではない美猫にとってはかなりのハードスケジュールだったが、好きな人を落とす作戦のためだと思えば頑張れた。
そうして大人になって久々に無一郎と再開した時は驚いたものだ。
背後から突然声を掛けられたからというのもあったが、それ以上に無一郎の変貌ぶりに驚いたのだ。
まず背が高くなった。そして中性的だった顔立ちは、大人の男性のそれへ。
中性的だった頃の面影は僅かに残るものの、それが何ともいえない色気として他者の心を魅了する。
逃さない、絶対に振り向かせてみせる。
成長してより魅力的になった無一郎を前に、美猫は決意を新たにした。
そうなれば作戦会議。無一郎が不在のタイミングを見計らって、美猫はちょこちょこ有一郎へ電話していた。
「だからなんでいつもいつも俺に言うんだ」
「だってぇ⋯無一郎くんのこと一番知ってるのはゆう君じゃない」
「まぁ⋯そうだな」
「無一郎くんの好みとか色々あの頃と変わってない?好きな食べ物とか、好きな色とか」
「ほとんど変わらない」
「ほとんどってことは、何か変わったとこがあるのね?」
「必死だな」
「意地悪しないで、教えてよぉ」
「好物は変わらずふろふき大根だけど、最近はハンバーグをよく食べるようになったよ」
「ハンバーグ?私も好き!それに得意料理!」
「よかったな。頑張れ。じゃあな」
「てきとー!待ってよぅ!」
「ここまでヒントをやったんだ。後は自分で考えろ」
「ヒントって⋯⋯切れちゃった。冷たぁい」
拗ねたように子供っぽく口を尖らせて、美猫はぽすんとベッドに寝っ転がった。
すると、ぺちぺちと頬を軽く叩かれる。
「むぅ。誰よぅ⋯」
「美猫、風邪引くよ」
この声⋯⋯。つい先程まで電話で聴いていた?
「ん⋯、ゆう君?」
ふと、頬を叩く手が止まった。美猫は眠い目を擦りながら視線を巡らせる。
どこだっけ、ここ⋯⋯?あ、無一郎くんの部屋だ。あのまま眠ってしまったようだ。
「間違えちゃった⋯⋯さっきまで有一郎くんの夢見てたから」
⋯⋯なんて言っても気にしてくれないだろうけど。
「無一郎、おかえりぃ」
「⋯⋯⋯⋯」
ふにゃりと微笑う美猫に対し返事はなく、無一郎は無言だ。
「勝手に入ったから怒っちゃった?ごめんね。すぐ出るから」
しかし身を起こそうとした次の瞬間、
「きゃっ⋯!」
突然、強い力でベッドへ押し倒された。
「無一郎⋯?そんなに怒ったの?」
恐る恐る問うが、返事はない。無言のまま無一郎が美猫の身体を跨ぎ、顔の横に手をついてくる。
ーー目が合った。ゾッとするほど昏く沈んだ淡い碧色の瞳が、月灯りを反射して冷めた光を帯びていた。
端正な顔が間近に迫ったかと思うと、次の瞬間には唇を奪われていた。
