幻灯花〈Halloween the blood party〉
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ーープロローグ
青灰色の薄雲がかかる暮れ落ちた空に朧げな月が昇っていた。
等間隔に並ぶ窓から薄闇が降り注ぎ、図書室を蒼暗く冷たい空気に沈ませている。
沙羅は無一郎と二人、書架の影に身を潜め、壁一枚隔ててくぐもって聞こえる喧騒が通り過ぎるのをひたすらに待つ。
徐々に喧騒が離れ、図書室が静寂に包まれた。
「⋯⋯行ったみたいだね」
「どうなってるの?生徒だけでなく先生たちまで、なんて⋯」
「今
「うん」
「⋯⋯っ!」
突然、無一郎が口元を押さえて上体をくの字に折った。
「どうしたの!?無一郎ちゃん⋯⋯っ」
外へ声が漏れないよう、声を押さえて問い掛ける。
無一郎の身体に追い縋るように近づいた沙羅を、無一郎はぐいっと押しのけた。
「駄目だ⋯!今の僕に近づいたら⋯っ」
無一郎は自身の胸元を掴み、苦しげに喘いでいる。
まさか⋯⋯。
「無一郎ちゃんも、吸血鬼にーー?」
押し殺したようにくぐもった声で呻いて、その場に蹲る無一郎。
「無一郎ちゃん⋯⋯!!」
再び追い縋り、その顔を覗き込んでハッとした。
無一郎がゆっくりと身を起こす。毛先に掛けて淡い碧色に透ける長い黒髪が絹ように滑らかに艶めいて、その肩をさらりと滑り落ちる。
薄闇の中、長い睫毛が瞳に僅かに影を落とすが、それでもその瞳は仄かな赫い光を帯びて見える。
「離れるんだ、沙羅⋯⋯今の僕は、何をするかわからない」
「でも、無一郎ちゃんを置いてはいけない」
「お願いだ、僕が正気を保てるうちに逃げ⋯⋯」
言いかけた言葉が終わらぬうちに、図書室の扉が乾いた音を立てて開いた。
「あら?こんな所にいたんですね」
ふわりと舞う羽のように耳を擽る柔らかな声音が、薄闇に響く。
無一郎は咄嗟に沙羅を背に庇い、声の主を睨みつけた。
「そんな怖い顔をしないで下さい」
くすくすと軽やかな笑い声とともに近づいてくる人影は、蒼白い窓明りに照らされてその輪郭が露わになる。
紫色に艶めく少し癖を帯びた黒髪を、蝶の髪飾りで後ろにすっきりと纏め上げた髪型。
透き通るような白い肌、長い睫毛に縁取られた菫色の大きな瞳が印象的な美貌。
しかしその瞳は今や窓から射し込む月灯りを反射して、仄かに赫く煌めいている。
「しのぶさん⋯⋯」
掠れた声で呟いて、沙羅の顔が悲しげに歪んだ。
しのぶはそんな沙羅に優しげに微笑みかける。
「あとは貴女だけですね、沙羅さん」
ゆっくりと視線を巡らせて、無一郎を捉えると、
「さぁ、時透さん。沙羅さんも仲間にしてあげましょう」
いつもと何も変わらない、やんわりとした抑揚でそう言い放った。
「無一郎ちゃん⋯⋯」
「⋯⋯⋯⋯」
傍の無一郎へ視線を移すと、無一郎がゆっくりと此方を向いた。
その双眸は酷く虚ろで、ぞくりと背筋が粟立った。
「痛くないよう優しく噛んであげて下さいね」
後退る沙羅を逃さないとでもいうように追い縋る無一郎。
ついに背中が書架へぶつかり、それ以上の退路をなくす。
「やめて、無一郎ちゃん⋯お願い」
抵抗できない力で肩を押さえつけられ、端正な顔が間近に迫る。
もうだめ⋯⋯っ。顔をそむけ、観念してぎゅっと瞑った、その時。
「合図をしたら、逃げろ」
耳元で、低い声が囁いた。
見開いた蒼い瞳に、涙が滲んだ。
