子猫のふりして虎は笑む
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「那由朶…」
私は頭を抱え込まれる様な体制で無一郎くんに抱き締められてる。
耳に届く彼の声が少し遠い気がするのはこの風の所為らしい。
風が…強く。
『無一郎…くん…?』
「…良かった…那由朶。」
『…寒い…、痛、い…』
「………、」
そう、寒くて痛い。
回り一面白い雪の海。
那由朶は無傷だったが斬撃を受けたせいで所々切れた隊服。
微かに感じたのはそれとは対照的な強い鬼の気配だった。
その鬼の攻撃を受けたのだから、隊服は無事ではなく。切れた隊服では寒い訳で。
『無一郎くん…なんでこんなに雪風だしてるの?』
「僕が出せる訳ないでしょ」
斜め45℃の視線の先無一郎が自分を覗くのが見える、淡い青緑した薄浅葱色の瞳が綺麗。
「…随分と、余裕だね那由朶
それとも…呑気なのかな?」
『…余裕じゃ無い、寒さだよ。』
「…うん」
私の回りは猛吹雪、頬に当たる雪が痛い。
風の音で無一郎くんの声が聴こえにくい気がする。
少し離れたら聴こえなくなりそうな雪と風。
『ここ、何処?』
「さあ…
分かるのはさっきの城が異次元空間になってたって事。」
『からくり仕掛けの様な場所にたくさんの鬼がいたよね。』
「うん。
なんだったんだろう…あんなに集まってる鬼は初めてだ。」
『消えたと同時に、何処かここに飛ばされた?
不死川さん達は大丈夫かな…』
「あの二人なら、大丈夫。
問題は僕達だけど…」
無一郎くんの長い髪と那由朶の髪を舞いあげ、風が高々と鳴る。
ヒョォオオオオオオ、言葉にするとこんな感じ。
『うん。
ここ…何処?』
「二回目だね那由朶。」
『…雪の山?』
「この様子じゃ、遠くに飛ばされたみたいだね。」
遭難ですか?この季節に…
そうなんですよ。
歓迎する様に身体を刺す雪と風、冷えてゆく体。
もはやこの寒さシャレではすまない。辺りをみていた無一郎が言う。
「分かった。」
『へ?』
「取りあえず…掴まってて」
軽々しく那由朶を抱き上げる無一郎に、
どこ行くのと聞いたが無言のまま走る彼。
抱き上げられて見る彼は…
「この辺りに…やっぱり。」
そう言いながら無一郎が降りた場所。
小さい山小屋か何か。
那由朶を抱えたままドアを蹴り開けると、那由朶を降ろしてドアを塞いだ。
状況がついて行けない。
「さっきの場所からちらっと屋根が見えた。
後…前に一度来た事がある。」
『そうなの?
じゃあ場所も把握して…って事は遭難は免れる…?』
「君ってば、本当に呑気だよね。
この吹雪じゃ、止むまでは行動出来ない。」
『まあ、そうだけど』
その言葉に焦る所か笑顔さえ向ける那由朶は囲炉裏の横へ何かを探しにゆく。
「何してるの?」
『ほら。あった。大体こう言う所に…』
無一郎が質問したと同時に火おこしを見つけ出した那由朶が火をつける。
明るくなる部屋、少しづつ暖かくなるけれど…
『くしゅん…!』
「那由朶」
『さっきの雪で…』
その言葉に無一郎が手を伸ばし肩に触れれば、湿った隊服。
暖かくなる部屋とは裏腹に、雪が水へと変わり、皮肉にも隊服の厚さ故に体温を奪う様だ。
『無一郎くんは大丈…
って、濡れてない??』
「僕は飛ばされた瞬間、雪を避ける呼吸を使っていたから」
『私は、いつも羽織があるからつい。』
「あの女の人に渡したんだったね」
はにかみ笑いをする那由朶に無一郎はやれやれといった表情をした。
以前の彼なら冷たい目をされるか、何も無かった様に無表情になるかだけだったが今の無一郎は呆れからではなく、心配からの配慮である。
自分より他人を優先する那由朶は昔からで、また鬼殺隊から柱になった今は一般人はもちろん他の隊員、言葉も交わしたことがない者にまで優先する彼女だから…
「僕のを…」
『む、無一郎くん?!』
「何驚いてるの?貸すだけだよ。」
『えっ、だけど無一郎くんが…』
「那由朶が脱ぐ訳にはいかないでしょ。」
そう言うと無一郎は上のボタンを外して背に手を回し首から隊服を持ち上げ脱いでいく。
襟の部分を抜いた無一郎の長い髪がサラリと落ちた。
華奢に見える彼だが、鍛錬された体には筋肉がついていて。昔も程よく筋肉があったのだがここまでではなく。
僅か二ヶ月と言う速さで柱になった無一郎だ、体の成長もそれなりにあったのか。
「取りあえず…向こうむいてるから。
それ脱いで、これを着てよ。
『でも無一郎くんが、風邪引いちゃう。』
「これ位僕は大丈夫。」
『私だって一応呼吸は使えるから』
「…那由朶が良くても、僕が困るの。」
そう言って那由朶の頭へ軽く投げる。
顔つきは何度も言わせないでって顔だ。
こう言う所は昔からある優しさで基本は変わらずなのだが、こんな風に昔の様に喜怒哀楽を見せ柔らかくなったのは記憶を取り戻した数週間前である。
『こ…こっち向いちゃ嫌だからね!』
「…みないよ、心配しすぎ」
背を向けたまま無一郎が答える。
こんなやりとりは昔から、ただ久しぶりの事で…
それを見て脱ぎ始めるが、手が上手く使えずなかなか脱げない。
「まだ?」
『もうちょっと…』
「鬼を倒す時は誰よりも早いのに…
他は…まあ、それが那由朶の…」
柱での那由朶はと言うと、沈着冷静。
判断が早くなんでも器用にこなす才女。
周りに気を配るのが誰よりも強いと言う点は認めるが、無一郎の前では真逆で実にのんびりした性格である。
衣擦れの音がして…
いいよって言う那由朶の声。
その声に呆れた顔を向けながら振り向いた無一郎。
「まったく…那由朶は何をしても、
トロ…い…」
無一郎の上着だけ被った姿で目の前に現れた那由朶。
ギリギリ隠れた体から伸びた白くすっとした長い足。
キュロットスカート水を含んでいたのだから…仕方ない上、脱げと言ったのは自分自身で。
いくら自分より那由朶が小さいとは言えども、上着一枚だけでは、上はブカブカ下は短すぎて目のやり場に困るのだ。
だがさっきの残烈が入った隊服でも...色々と...
いや、困ると思う自分がおかしいんだと言い聞かせ…グッと胸を抑えて深く呼吸をした。
『やっぱりちょっと大きいね、この上着…
前は私と変わらなかったのに』
「いつの話?」
『うーん、一緒に川で泳いだり…
お風呂に入ったりした時。』
「7歳位の時でしょ」
那由朶が腕を動かす度に隙間からチラつく足や…その先。
無防備な笑顔と、幼馴染故の安心感なのかどうか。
これが自分で無ければ、いや…自分でも。
〝襲ってください〟と言う様なモノだと思う。