比翼の鳥は碧に恋う
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ーー3、碧に恋う
無一郎と結ばれて、翌日。先に目を覚ましたかすみは朝食の用意をしようと身を起こした。
否。正確には身を起こそうとした、だ。
「……どこ行くの」
動く気配に目を覚ましたらしい無一郎にぎゅっと抱き寄せられて、あっという間に身動きが取れなくなった。
寝惚けているせいか、少しだけ声が掠れている。
「どこにも行かないから。朝食の用意をするだけ」
かすみは宥めるような優しい声音で囁いて、その頭を撫でる。
すると、無一郎は甘えるようにその身を擦り寄せてきた。
「もう少し。このままでいて」
「いいよ。無一郎がいいなら」
「……今日一日ずっとこうしていたい……」
「ふふ。私も……」
「……かすみ」
「なぁに?」
「好きだよ」
「うん。私も好き」
無一郎の瞳が此方を向いた。その目は此方が怯むぐらい真剣で、つい先程まで寝惚けていた人間とは思えないほどで。
かすみも微笑をといて真剣な顔になる。
「愛してる。本気なんだ」
「うん」
「ずっと僕の傍にいて」
「うん」
「僕と一緒に人生を歩んで欲しい」
「! それって……」
「結婚しよう」
「っ……」
視界がぼやけた。溢れた涙が頬を伝い、視界がクリアになる。
すぐ傍の無一郎の顔が涙で透き通って見えて、それはとても綺麗だった。
「……はい。不束者ですが、末永く宜しくお願いします」
震える涙声で、しかしはっきりと、言い切るかすみ。
無一郎は多幸感に満ちた笑みを浮かべた。
二人が結婚して、更に数ヶ月の月日が流れた。
鬼舞辻無惨との戦いは、凄惨苛烈を極めたようだった。
しかし。左腕という欠損はあれど、無一郎が生きて戻って来てくれた事を幸せにかすみは思う。
自身の膝に頭を預け、気持ちよさそうに眠る無一郎の髪を優しく撫でた。
出会った頃から変わらない透け感のある綺麗な長い黒髪は、薄陽を弾いて毛先が淡い碧色にきらきらと煌めいてーー
目を細めて眺めていると、無一郎が僅かに身じろいた。
「ん……」
「無一郎、起きたの?まだ寝てていいのに」
薄い瞼がふわりと開いて、長い睫毛に縁取られた淡い碧色の瞳が露わになる。
透き通って、綺麗な瞳。これも出会った頃から変わらない。
かすみの大好きなもの。大切なもの。
「交代」
徐ろに身を起こした彼が、今度は自身の膝の上にかすみの頭を乗せた。
「疲れたでしょ?」
「気にしなくていいのに」
「僕がこうしたいから、してるんだよ」
「ふふ。じゃあお言葉に甘えて」
無一郎の事で、変わったこと、変わらないことがある。
変わったことは、出会った頃より背丈が伸びた。声が少しだけ低くなった。そして……左手を失った。
抱える想いはーーどっちだろうか。
互いにあの頃よりも重く、深くなった気がする。
「かすみ」
「ん?」
「愛してる」
「私もよ」
骨張った長い指が頬に触れ、大きな手がかすみの頬を包む。
そのままゆっくりと無一郎の方を向かされ、唇が軽く触れ合った。
「言葉だけじゃ足りない」
「そうね」
淡い碧色の瞳が細められ、その奥に熱が揺らめく。
変わらない色彩ーー以前からかすみが焦がれて止まない
貴方がいないと笑えないの。
願わくは、
ずっとずっとこの
ーー比翼の鳥は碧に恋うーー