比翼の鳥は碧に恋う
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ーー1、籠の鳥
陽射しと鳥の囀りが爽やかな朝、霞柱邸にてかすみは目を覚ました。
「んー。良く寝た……。何だか懐かしい夢を見た気がする」
軽く瞼を擦りながらゆっくりと身を起こす。襖を開くと、対面は廊下を挟んでガラス戸になっている。
そのガラス戸越しには、夏特有の青と白のコントラストの強い晴れた空が広がっていた。
夏の強烈な陽射しを受けて、庭園の植栽や灯籠の朝露がきらきらと光を零していた。
今日は良い天気だ。かすみは微笑んだ。
「なぁに、自分だけ朝ごはん?」
襖を開くと既に鍛錬を済ませた無一郎が朝食を摂っていた。
「別に一緒に食べる必要はないでしょ」
「それはそうだけど……」
「君の分もあるから、一緒がいいなら持ってきなよ」
「今はいいわ。起きたばかりだから」
「つくづく君は自由奔放だね」
「いいじゃない、別に。お昼と夕飯は私が作るから」
「そうしてくれると助かる……」
無一郎が此方を見て少しだけ面食らったような顔をした。
怪訝そうに首を傾げるかすみ。
「寝癖ぐらい直してから来なよ」
「………あら」
ぼんやりとした淡い碧色の瞳には、呆れの色が浮かんでいた。
確かに毛先が一房、ぴょこんとあらぬ方向を向いている。
袂から櫛を取り出し、髪を梳かそうとすると、
「貸して」
かすみの手から櫛をやんわり取り上げて、無一郎はその髪を丁寧に梳かし始めた。
「意外と上手ね」
「自分の髪で慣れてるから」
髪を梳かして貰いながら、思わずくすっと笑みを漏らすと、無一郎が怪訝そうに「何?」と問うた。
「貴方って不思議な人。冷たいのか優しいのか、よく分からない人ね」
「君は無防備過ぎると思う。寝間着のまま恋仲でもない男の前に、普通は来ない」
「顔は洗ったけれど」
「そういう事を言ってる訳じゃないよ」
「いいじゃない。無一郎だけよ、こんなの」
「…………。そうして」
暫く髪を梳かしていると、すっかり元通りへ。
髪に艶が戻り、心做しかいつもよりもサラサラとしている気がする。
「有り難う」
「うん」
「この櫛も。宝物にしてるの」
繊細な模様の描かれた黄楊の櫛を、大切そうに胸元へ抱き締めて微笑むかすみ。
そんな彼女をぼんやりと見つめて、やがて無一郎は微かに口角を上げた。