君と結わえるしのびごと
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幼い頃の話だ。街で有名な器量良しの姉妹がいた。
遠巻きに少しだけ見た事があったが、確かに綺麗な少女達だった。
ある日その姉妹の妹の方が、近所の悪ガキに苛められている場面を目撃した。
「返して!」
「やだね!悔しかったら取り返してみろよ、チビ!」
「!」
悪ガキは少女の髪飾りを奪って、得意げにその頭上にチラつかせている。
勝ち誇った笑みが何とも憎たらしい。
音心はそっと気配を殺してその悪ガキの背後に回りーー
「うわっ」
襟首を掴んで思い切り地面に引き倒した。
すかさずその手から、髪飾りを取り返す事も忘れずに。
「大丈夫?災難だったね。はい、これ」
笑顔で髪飾りを返してあげると、少女は頬を真っ赤にして悔しそうにぷいっとそっぽを向いてしまった。
ありゃりゃ。負けず嫌いさんなのねと思っていると、
「お前ら!ちょっーと顔が可愛いからって生意気なんだよっ!いい気になるなバーカ!」
そんな捨て台詞を吐いて、悪ガキは走り去っていった。
残された音心達はキョトン顔。
「何あれ。意味分かんない。……まぁいいや」
改めて少女に向き直り、
「また何かあったらいつでも言ってね。助けてあげる!」
屈託なく笑いかける音心に少女は一瞬ぽかんととした顔をしたが、次には何故か怒ったような顔になり、ぷいっと横をむいて。
「別に必要ないわよ。………でも」
聴こえるか聴こえないかの小さな声で。
「……有り難う……」
ぶっきらぼうに礼を言ったのだった。
その様子があまりにも可愛らしく、音心はすぐにこの娘が大好きになったのだった。
「しのぶちゃん、これ見てっ」
その日は音心の誕生日であった。
音心は大事そうに抱えていた包みを、しのぶの前でゆっくりと開いてみせた。
「みたらし団子……?」
「そうなの。お母ちゃんがね、誕生日に特別に買ってくれたの」
「え?今日、誕生日なの?」
「うん。一本は妹にあげちゃったけど、まだ二本あるから。一緒に食べよう?」
「いいわよ、それなら自分で食べなさいよ」
「どうして?私はしのぶちゃんと一緒に食べたいの」
「し、仕方ないわね……」
「ふふふ」
木陰に二人並んで腰掛けて、団子を食べる。
好物だったのだろうか、平生はキリッとしているしのぶの表情がほんわかと緩んだ。
「しのぶちゃん、みたらし団子好き?」
「べ……別に……っ」
ぷいっと横を向くしのぶの頬が朱に染まる。
「ふふふ。分かりやすーい」
「うるさいっ」
「くすくす……」
「いつまで笑ってるつもり」
「だってー」
「………音心」
「うん?」
「誕生日、おめでとう……」
「うん……有り難う」
幼い笑い声が記憶の中徐々に遠ざかっていく。
それはとうに過ぎた日の、温かな思い出ーー