君と結わえるしのびごと
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一瞬状況が掴めずポカンとする音心だったが、その後一気に状況を理解して狼狽。
「えっ、そんな……!」
言いかけて、胡蝶しのぶが悲しそうに笑顔を曇らせるので、絶対に確信犯であろう事を悟りつつ大人しくプリンを口に運んだ。
するとバニラの香りが鼻を抜け、程よい甘さが口の中に広かったかと思えば、余韻を残してあっという間にサーッと溶けていく。
これも初めての感覚だ。
「美味しい……」
思わず指先で口元を押さえて瞳を見開く。
その反応を見て、胡蝶しのぶは満足そうに微笑んだ。
柔らかく瞳を細めて、口元を緩めて。仄かに朱に染まった頬が、素敵な笑顔。
その笑顔が、どうしようもなく音心を魅了する。
音心はずっと疑問に思っていた事を口にした。
「しのぶ様」
「はい」
「どうしてこんなに良くして下さるんですか?」
「………………」
「昨日初めてお話したばかりの、一隊士にすぎない私に、どうして……」
「………………」
夕陽が窓から差し込み、部屋を澄んだ橙色に染めていた。どの窓からも同じように光が差し込んでいる。
物憂げにその長い睫毛を半ば伏せて微笑む胡蝶しのぶは、儚げで美しくて。
どこか諦観を含んだその笑みに、音心はわけも分からないまま胸が締め付けられた。
「………本当にそう思いますか?」
胡蝶しのぶは確かにそう言った。
目を見開く音心の視線の先で、胡蝶しのぶはゆっくりと蝶の髪飾りを外した。
丁寧に編み込まれていた髪がほどけてふわりと宙を舞い、その肩へと落ちていく。
艷やかな黒髪が夕暮れの陽射しを反射して、きらきらといつもより淡い紫色に透けて輝き、その美貌に映える。
それはとても幻想的な光景だった。
その光景に見惚れて完全に呆けていた音心の前に、しのぶは髪飾りをテーブルへ置くと、スッと差し出して見せた。
「私達がお話したのは、昨日が初めてではないはずです」
その言葉に、目の前に置かれた髪飾りに。
まさか……。とくん、とくん、と心臓が温かく鼓動する。
記憶の奥底にずっとしまい込んでいた、大切な思い出が疼くーー