君と結わえるしのびごと
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「あの、胡蝶様……っ」
「どうしましたか?」
「やっぱり悪いです!こんなに色々貰う訳には……!」
編み上げのショートブーツをこつこつと鳴らして先を行くしのぶが足を止め振り返り、不思議そうに小首を傾げた。
「何故ですか?今日は貴女のお誕生日だと聞きましたが……」
「確かにそうですけど……っ」
待って、どうしてご存知なの!?と頭の隅で思ったが、今はそれどころではない。
頂いた諸々がやばすぎる。
帽子に洋服、蝶の髪飾り……果ては高価な革製のパンプスまでもだ。
只今音心は、ワンピースによく合うデザインの、トウの丸いストラップ付きのパンプスを履いている。
いくら誕生日だからといって、ここまでして貰っていい理由にはならない。
しかも、相手は柱だ。本来ならこうして、直接口をきく事すら憚られる相手なのだ。
軽々しく声を掛けようなどとしていた過去の自分をぶん殴りたくなりながら、音心が口を開きかけた瞬間だった。
「胡蝶」
涼やかな低い声がした。
そちらへ目を向けると、黒髪の青年が静かに佇んでいた。
涼やかな美貌と独特な片身替の羽織ーー水柱様だわ、と即座に思い当たる。
「冨岡さん。蝶屋敷へ何か御用ですか?」
「軟膏をきらした」
「そうですか。ではアオイに仰って下さい。彼女なら新しいものをご用意出来ますので」
「胡蝶はこれから出掛けるのか?」
自分で尋ねておきながら全く興味のなさそうな、酷く抑揚の無い平淡な口調である。
たが、これに対して胡蝶しのぶは、にこにこしながら音心の手を取って、音心が思ってもみなかった返答をした。
「ええ。逢引です」
あ い び き
その四文字以外の全ての言葉が吹き飛んで、思考が真っ白になって固まった。
「………そうか」
突っ込まない……だと!?
相手の反応のあまりの薄さに、逆にこちらがギョッとする。
「そういう訳なので、邪魔しないで下さいね」
「しない」
いたたまれなくなった音心はダッシュでその場を逃げ出した。
「あらあら、困った人ですねぇ」
その後ろ姿をさも微笑ましそうに眺めるしのぶだったが。
「胡蝶」
ふいに名を呼ばれ、視線のみをそちらへ向ける。
「あまり誂うな」
静かな忠告。
「さて……どうでしょう?」
妖しく細められた菫色の双眸は、今度は音心の姿のみを捉えていたーー