君と結わえるしのびごと
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ばちんっ……!!その夜音心は部屋の外にまで響くほどの勢いで、自分の頬を両手で叩いた。
何を浮かれているの、私。あれは個人的なお出掛けのお誘いではなくて、きっと何かしら事務的な用事なのよ、うん。当然じゃない。
落ち着け、落ち着け。
となれば、明日の服装は隊服……と結論付けた音心は、一目散に箪笥へ駆け寄りごそごそと中身を物色する。
「あったー!支給されたばっかりの、まだ袖を通してない新品の隊服!あ、刀もピッカピカに磨いておかなくっちゃ!」
完全に浮かれポンチであった。
しかし次の日にはその努力の全てが無駄になる事を、音心はまだ知らないーー
約束の当日、蝶屋敷を訪ねると、胡蝶しのぶはいつもと様子が違っていた。
「胡蝶様ーー」
う、う、美しい……っ!胡蝶しのぶは隊服姿ではなく、白地に薄紅色と薄墨色の花模様が散る綸子の着物に淡紅藤色の袴を合わせ、いつもの羽織を羽織った姿。
髪型も夜会巻きではなく、頭のラインに沿ってきっちりと編み込んだ髪を、左耳のすぐ傍、蝶の髪飾りで留めている。
髪飾りの位置が違うせいだろうか、普段と印象がだいぶ違う……。
目を丸くして見惚れる音心だったが、これでは不敬だと思い直し、
「音心です!階級はーー」
「知っています」
「は……はい。あの、今日はどういったご用件でしょうか?」
「真面目ですね。……ですが、今日は仕事の為にお呼びしたわけではありません」
「……え」
「取り敢えず、此方に着替えて下さい」
「???」
「差し上げますので、これからも時々は着てくださいね?」
「えっ!?そんな……!」
「お部屋はあちらです」
しのぶが何やら合図を送ると、廊下の奥から三人の幼い女の子達がぱたぱたとやってきて、狼狽する音心の手を取り「こっちです〜」と案内してくれる。
どうにか肩越しに振り返ると、しのぶは相変わらずニコニコと朗らかな笑顔で見送っていた。
そうして押し込まれた部屋の中、音心は取り敢えずしのぶの指示通り着替える事にしたのだった。
「まぁ、可愛らしい!」
「そ……、そう……です……かね?」
「はい。とってもお似合いですよ」
「うぅ……」
そんな胡蝶しのぶ絶賛の音心の格好といえば、英国の女の子とかが着ていそうな(イメージ)クラシカルなワンピースにクローシェ帽を合わせた姿。
レースの襟とリボン、ウエストの絞りの効いた、ミディアム丈の程よい広がりを見せるスカートが可愛いデザイン。
人生初の洋装である。
「あの、胡蝶様……」
「どうしましたか?」
「こんな高価な物頂けません」
「………………。そろそろ出掛けましょうか」
「胡蝶様……!」
「その前に」
「?」
そうだ、いいこと思い付いたとばかり胡蝶しのぶは可愛らしく手を軽く叩いたかと思うと、徐に音心の横結びにした髪の結び目に触れた。
「よく似合いますよ」
そうして手が離れると、音心の髪には蝶の髪飾り。
漆黒の縁取りに、淡い黄色が程良く煌めいて、揚羽蝶を思わせた。
「それも差し上げます」
当然のようにさらりと言われ、音心は大いに困惑した。