君と結わえるしのびごと
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例えば淡い青空から降り注ぐ陽射しに照らされて、淡く紫色に透ける綺麗な黒髪だとか。
しっとりと艷やかで、真っ白な肌が真珠みたいだとか。
顔は職人が丹精込めて創り上げた人形のようように寸分の狂いもなく左右が対称で、大人の色香も少女のような愛らしさも同時に併せ持ち、見る者を魅了する。
小柄、華奢でありながら女性らしいラインを描く体躯。
美しい容姿に相応しい優美な立ち居振舞い。
そんな彼女だけど、鬼を滅する立派な剣士でーー
その頭脳を活かし、薬学に精通し、鬼をも殺す毒を開発した。
また、その敏捷性と毒を駆使して独自の剣技を編み出し、柱にまで上り詰めた女性。
ただ優雅で美しいだけではない、強く、聡明な女性。
胡蝶しのぶーー彼女は、音心が憧れてやまない存在であった。
明日は何を隠そう音心の誕生日である。
音心は偶然に任務で居合わせた胡蝶しのぶを見て、ある決意を固めていた。
神様有り難うございます、なんて心の中でこっそり拝みながら。
胡蝶様の好きな甘味は調査済みだ。ついでにみたらし団子の美味しいお店も。
実をいえばこれまでにも何度もお誘いしようとは思っていたのだ。
………悉く失敗してしまったのだけれど。
でもでも、今日こそは!明日は私の誕生日なんだから!
神様だって、今日ぐらいは、味方してくれるはず!
……と、そこまでは勢いが良かったものの、どうしてもご本人(しかも豆粒ほど遠い)を前にすると、膨らむ緊張に反比例するようにさっきまでの勢いは萎んでいく。
「ううう……」
ええいっ、女は度胸よ!
ぎゅっと目を瞑り、胡蝶様の方へ向かって足早に歩き出す音心。
気分はまるで特攻隊だ。散る未来しか想像できない。
いいんだ、その時は華々しく散ってやる!
半ばヤケクソ気味に一歩を踏み出した時だった。
「もしもし」
すぐ背後で聞き覚えのある声がした。
ふわりと舞う羽のように耳を擽る優美な声音ーー声の主に瞬時に思い当たり、まさかという思いで音心が振り向くと、
「目を閉じて歩いていると、転びますよ?」
思った通りの人物が、にこにこと穏やかな笑みを浮かべて上品に佇んでいた。
「こ、胡蝶様……?」
「はい」
「………………」
どうして……だって、さっきまであんなに遠くに……。
驚き過ぎて言葉が出てこない音心を余所に、胡蝶しのぶは上品な笑みを崩さぬまま。
「音心さん」
「ひゃいっ!」
「明日お時間はありますか?」
「は……い?」
「無くても作って頂きますけれど」
「………?………?」
「明日は朝の鍛錬が終わり次第、蝶屋敷に来て下さい」
「えっ……」
「約束ですよ」
するりといつの間にやら音心の手が取られ、小指と小指が絡められる。
音心はといえば、呆気に取られたまま、初めて間近で見る胡蝶しのぶの美貌に魅入っていた。
半ば伏せられた髪と同じ色の長い睫毛が綺麗だなぁ、とか。
すっと通った細い鼻梁や、小さいけれどふっくらとした桃色の唇とか色っぽいなぁ、とか。
透明度の高い大きな菫色の瞳が綺麗で吸い込まれそうだとか。
殆んど現実逃避である。
「では、明日」
白く繊細な指先がするりと外れ、胡蝶しのぶは優美な微笑を残してふわりと身を翻した。
かと思えば、目にも止まらぬ速さであっという間に音心の前から姿を消す。
取り残された音心はといえば、
「神様……コレハ、ドウイウコトデショウカ……?」
いきなり急展開過ぎないかと、戸惑いの声を漏らすばかりであった。