黄昏恋々
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「もぉっ、もぉっ!義勇兄様のばかばかっ!昨夜は誰かに傍にいてほしかったのにっ。話を聞いてほしかったのにっ」
此処にはいないエアー義勇の胸元をぽかぽかと叩きながら、早朝実紅は喚いていた。
昨夜は義勇のもとへ泣きながら転がり込むと、彼は特に驚いた様子もなく迎え入れてくれた。
暫くは彼の胸元へ顔を埋め、しくしくと泣いていた。
彼は何も訊かず、優しく抱きしめて背中を擦ってくれていたのだが。
実紅が泣き止むと、途端に「少し用がある」と言って出ていってしまって、それきりだ。
大方錆兎の屋敷にでも泊まっているのだろう。
勘の良い彼の事だ、何があったのか訊かずとも察していたに違いない。
そして帰ってこなかったのは、“今夜は男と過ごすのは怖いだろう”だとか、彼なりのこれは優しさなのだろう。
だが、実紅としてはそのズレた気遣いが今は只々腹立たしい。
お陰で一睡も出来なかったのだから。
「もぉっ……」
最後にもう一度悪態をついた、次の瞬間だった。
がらりと勢い良く玄関の扉が開く音がして、誰かが荒々しい足取りでこちらへ向かって来るのが分かった。
義勇兄様が帰って来たのかな……と一瞬思ったが、それにしては何かが変だ。
義勇はこんな風にズカズカと歩かない。
寧ろこれって………。向かって来る人物に思いあたった途端に、冷や汗がどっと噴き出す思いがした。
待って、まだ心の準備が………!胸中でそう叫んで、実紅は一目散に逃げ出した。
「実紅、待て、話がある!」
「やだぁ!来ないで!」
「駄目だ、逃さない」
バタバタと廊下を走り回るうち、実紅の逃走エリアは庭にまで拡大した。
何の迷いもなく裸足のまま庭を駆けていく華奢な後ろ姿は、まだ寝間着のままだ。
白い足袋が汚れるのも構わず錆兎も庭へ降りると、肩越しにその様子を見ていた実紅は、あろう事か庭の木に登ってまで逃走をはかったのだった。
そこまで拒絶されては流石にそれ以上追う気をなくし、
「………そんなに俺が嫌いか、実紅?」
木の下から切なげに顔を歪めて訴えるにとどまる。
「錆兎兄様!」
木の上から強く名を呼ばれ、次の瞬間。
「私……、私……、錆兎兄様が好き!!大好きなの!!」
それは思いがけない盛大な告白であった。
思わず真顔な錆兎の頭上にハテナが浮かぶ。
「お前……。言動がちぐはぐにも程があるぞ」