黄昏恋々
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バンッ!と拳を叩き付けられ、壁全体が激しく震えた。
思わず実紅はびくっと肩を震わせ、口を噤んだ。
平生では凪いだ湖面のように静かな瞳の奥には今、確かな怒りが揺れていた。
初めて目にする兄弟子の姿に気圧されて、ぞくりと身が竦む。
「………俺がお前を、何とも思っていないだと?」
その声音は平生よりもずっと低くて、重いものだった。
その事が、錆兎の怒りの深さを物語る。
「よくもそんな事が言えたものだ。………俺がお前をどう思っているか、直接その身に刻み込んでやってもいいんだぞ!」
その言葉に実紅は、どうしようもない反発を覚えた。
「なら、そうしてよ!」
こんなのはきっとただの脅しだ。
「どうせ私に、興味なんてないくせに……っ」
そう思うと惨めで悲しくて、涙がぼろぼろと頬を伝う。
「………後悔するぞ」
「しないものっ」
「………………」
唐突に、手首を捕まれた。そこから先はあっというで、抵抗する暇も与えられなかった。
「錆兎兄様……!?何を……っ」
身体が壁へ押し付けられ、両の手首が頭上で一つに拘束される。
錆兎は自由になるもう片方の手で、実紅の着物の合わせ目をぐいっと乱した。
そしてーー
「やっ……」
「良いと言ったのは、お前だ」
熱を帯びた吐息が首筋に触れたかと思うと、錆兎の舌が鎖骨に触れた。
びくり、と思わず全身が震える。
熱い吐息とともに舌先が鎖骨を滑って這い上がり、首筋に吸い付くように口付けられる。
暫くすると、ぴりっとした微かな痛みと甘い電流みたいなものが背筋に走る感覚がして、本能的な恐怖から何とか錆兎の腕から逃れようともがくも、掴まれた手首はびくともしない。
これが男と女の力の差………。
もはや抵抗を諦めた実紅の腕から力が抜ける。
虚ろな瞳から涙が流れた頃、漸く錆兎が身を放す気配がして。
そちらに瞳を向けると、
「実紅………」
熱っぽく目を細めて、首筋に指先を這わせる錆兎の姿ーー
男の人にしては細く、しかししっかりと骨張った綺麗な指が、実紅の首筋を愛おしそうになぞる………。
その妖艶さに実紅は恐怖も忘れて思わず魅入ってしまっていた。
だが、
「これで分かったか?男とはこういうものだ。これに懲りたなら、二度と煽るような事は口にするな」
耳元で囁かれたそれは、今までの熱が嘘のように、ゾッとするほど冷たい声音だった。
ハッと我に返った実紅は、いつの間にか解放されていた両手で錆兎を思いきり突き飛ばし、
「ばかぁっ!!」
泣きながら走ってその場を逃げ出した。
残された錆兎は、壁に背を預けそのままずるずるとその場に座り込む。
「そうだ………それでいい」
一刻も早く………
この