黄昏恋々
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ーー錆兎兄様が分からない。
昔、錆兎と義勇、どちらが実紅を引き取るかで揉めた事があった。
真っ先に名乗りを上げたのは義勇の方で、錆兎はといえば、あっさりとそれを承諾したのだった。
………ショックだった。次に湧いてきたのは怒りで、身勝手とは知りつつ実紅は半ば強引に錆兎のもとへと押し掛けたのだった。
だが、予想に反して錆兎は怒りもしなければ、拒否もしなくてーー
錆兎………。幼い頃からの実紅の想い人である。
長めだがザクザクと無造作に切り込まれた明るい宍色の髪。
キリッとした眉目、引き締まった口元。
顔立ちは整っているが、右耳から口元に掛けて大きな傷があった。
しかしその傷跡が、精悍な印象をより強くする。
性格は正義感が強く男気があり、そして優しい………誰よりも。
その優しさは決して分かりやすいものではなく、ともすれば厳しさが先立ち気付きにくいが、芯の通った優しさなのだ。
そんな彼を実紅は兄弟子として心から尊敬し、慕っていた。
「錆兎兄様、これは……?」
それは美しく仕立てられた羽織であった。
綺麗な桜色の羽織は袖と裾に空色のぼかし染めが入っている。
「祝いの品だ」
「祝いって……お誕生日の?だって……もう貰ったじゃない。お着物とか、髪飾りとか、綺麗な草履も……」
「実紅」
「!」
厳しい声音と鋭い視線に囚われて、思わずビクッと身が竦む。
平生の錆兎は素っ気ない。だが、誕生日の日には少しだけ態度が軟化する。
そして今日は特に優しかった。嬉しい反面、嫌な予感もしていた。
その“嫌な予感”が今正に加速度的に迫って来るようで、実紅は今すぐ走ってこの場を去りたい衝動に駆られていた。
やめて……。それ以上言わないで……!そんな願いも虚しく、錆兎は容赦なく言葉を次ぐ。
「お前は柱となり、鬼殺隊の未来に貢献するんだ」
それはつまり、此処を出て行く事を意味していてーー
即ち錆兎とは離れ離れになってしまうという事。
「やだ………」
勝手は重々承知している。
「やだ、そんなの……。私、柱になんて、なりたくないよ!」
だが、止まらない。………涙も。
「実紅、いい加減にしろ」
錆兎が嗜める。伸ばされた手を、実紅は闇雲に振り払った。
視線の先で錆兎が眉を顰める。
だが、それでもいったん溢れた感情は止まらなかった。
「錆兎兄様はいいわよね!私の事なんて何とも思ってないんだから!私が何処へ行こうと、どうだっていいんでしょ!?」
次の瞬間だった、錆兎の纏う雰囲気が一変したのは。