黄昏恋々
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彩り鮮やかに染まった秋の山々を錆兎は実紅零して、眩しさにそっと目を細める。
「何だかこうしていると、子供の頃を思い出すね……」
「そうだな」
妙にしんみりとした様子で、微かに微笑みながら実紅が言った。
そう険しくないとはいえ、こんな華やかな格好で山道を歩いたにも関わらず、実紅は汚れも怪我の一つもないらしい。
その身のこなしは流石と言うべきか、柱に選ばれたのは、やはり伊達ではないようだ。
柱………。柱に昇格すれば、個人の邸宅が与えられる。
つまりそれは、彼女が錆兎のもとを去る事を意味していてーー
認識した途端、ズキンと胸の奥が疼いた。
「錆兎兄様?」
呼び止められて、ハッと我に返った。
「………何だ?」
「もォ……話聞いてた?」
「………すまない」
「やっぱり聞いてなかった」
「悪かった」
「許さなぁい」
拗ねたようにプイッと横を向いてから、焦りだす錆兎を横目に実紅は、
「うーそ。許してあげる」
と、後ろ手に手を組んで錆兎の顔を覗き込み、悪戯っぽく笑ったのだった。
無邪気なその笑顔が、錆兎の鼓動を騒がせる。
「ねぇ、覚えてる?」
「何をだ」
「小さい頃、私、義勇兄様と錆兎兄様、両方のお嫁さんになる!って泣いた事あったじゃない?」
「………ああ。あったな」
「義勇兄様にそれは無理だよって諭されても、私泣いてきかなかった」
「………………」
「今考えると、とんでもないよねぇ。子供ってこわーい」
クスクスと軽やかに笑う彼女。
「でも楽しかったなぁ、あの頃は。……鍛錬は大変だったけど」
「………実紅」
「なぁにー?」
「誕生日おめでとう」
「有り難う。錆兎兄様」
子供の頃ーーあの頃はただ、実紅を守る事しか考えていなかった。
この想いが、あの頃のままなら良かった。
………いつからだろうか。
「冷えてきたね、そろそろ帰ろ」
その無垢な笑顔に。
「錆兎兄様」
自分を呼ぶ甘い声音に。
愛おしさともどかしさ、そして苛立ちが募るようになったのは。
決して彼女が悪い訳ではない。
ただーー触れたい、お前の髪に。その肌に。
彼女をこの腕の中へ閉じ込めて、誰の目にも触れさせたくはない。
彼女の全てを暴いて、俺だけのものにしたいーー
そんな浅ましい欲望が日々己の内で膨れ上がっていくのを、錆兎は随分前から自覚していた。
それを彼女に気取られまいと躍起になるあまり、彼女に対する態度が必要以上に厳しく、素っ気ないものになっていく事も。
しかし、だからといって、あの頃の自分には、もう戻れはしないのだ。