黄昏恋々
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「錆兎兄様、……どう?」
錆兎の贈り物である着物に身を包み、微笑む実紅は、綺麗だった。……とても、とても。
白地に彩鮮やかな八重桜と組紐模様の染めの着物に、金の毬模様の織りの袋帯と鶯色の帯揚げを合わせ、紅色と常磐色の糸で編まれた帯締めで締めた姿。
薄紅色の半衿と小花柄の伊達衿が、さらに華やかな印象に仕上げている。
ふんわりと結い上げた髪は、真っ白な牡丹の髪飾りで留めていた。
「可愛い?」
「ああ。似合っている。とてもな」
はっきりと答えてやれば、嬉しそうにほんのりと頬を染めてはにかむ彼女。
「有り難う。錆兎兄様……」
ひどく甘くてとろけるような、けれど無垢で無邪気なーーそんな至極綺麗な笑顔で彼女が言った。
眩しいものを見るように、錆兎は瞳を細めてそんな彼女をじっと見つめていた。
「なぁにー?照れちゃう」
「………いや、何でもない。そろそろ行くか」
「うん」
「それで、何処へ行きたいんだ?」
「んー。まだ決めてない」
「お前……」
「いいじゃない。折角だから、ゆっくりその辺を散策しようよ」
「駄目だ。鬼はいつ現れるか分からない。陽が落ちる迄には帰るぞ」
「はぁい……」
厳しい口調で嗜める錆兎に、実紅はあからさまに残念そうに口先を尖らせて見せたが、
「そうね、お夕飯の支度もあるし」
次の瞬間にはころりと機嫌を直してにこりと笑った。
くるくるとよく変わる表情は、見ていて飽きない。
知らずフッと口元を緩めて微笑む錆兎は提案する。
「それなら喫茶店で何か食べて帰るか」
すると、うるっと黒目がちな瞳が此方を向いた。
「でもー、私山で紅葉が見たいの」
「街へは行かないのか」
「うん」
「何故だ、今日は特別な日だろう。街へ行けば、着物でも髪飾りでも、好きなものを買ってやるぞ」
「ぷっ……」
急に実紅が吹き出した。
「何がおかしい?」
少々憮然とした様子で眉を顰める錆兎。
「だってー。義勇兄様には色々買い与えて甘やかすなって怒るくせに、それじゃ錆兎兄様も変わらないじゃない」
「………っ」
ふいに痛い所を突かれて、思わず言葉に詰まる。
………すると、
「いいの。街みたいな人がいっぱいいる所より、綺麗で静かな場所がいい。錆兎兄様と二人だけがいい」
長い睫毛を伏せて。仄かに頬を染めて。
幸せそうに実紅が微笑む。
「………………。行くぞ」
「ん?」
「紅葉を見たいんだろう?」
「!、有り難う、錆兎兄様!」
嬉しそうに弾む足取りでついて来る実紅に、敢えて追いつかれない速度で足速に歩きながら、ぼそりと言った。
「言うな、そんな殺し文句。………莫迦が」