黄昏恋々
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神無月の早朝。藍色の空が水に溶け出したように薄く透き通り始め、山際に太陽が金色の光を覗かせた頃。
実紅が身を寄せている錆兎の邸宅に、隠しの手により大量の贈り物が届いた。
その贈り主には心当りがあり過ぎて、実紅は思わず複雑そうに顔を顰めるのだった。
「また届いたのか」
温かみのある低い声音が背後で響き、振り向くと藍色の着流しに白い羽織を肩に引っ掛けた姿で錆兎が静かに佇んでいた。
「うん……」
「義勇か」
「そうだと思う」
「今日はお前の誕生日だからな」
「あのね、錆兎兄様から言ってほしいの」
「何をだ?」
「義勇兄様のお陰で私、お着物もお洋服も髪飾りも草履も靴ももう充分たくさん持ってるの。凄く感謝してるわ」
「ああ」
「だからね、これ以上増やされると困るの」
心底困った顔で懇願する実紅を錆兎は暫く黙って眺め、……やがて瞳を伏せると、
「そうだろうな」
ふっと口元を柔らかく緩めて僅かに微笑んだ。
「あ、私もう行かなきゃ」
「鍛錬か」
「うん。行って来ます、錆兎兄様」
「ああ。しっかりと励んで来い」
「はぁい」
ふわりと踵を返して走り去る妹弟子の後ろ姿を見送りながら、その姿が消えると錆兎は物憂げに瞳を伏せた。
実紅は義勇と錆兎の妹弟子だ。否、元妹弟子といった方が本来なら正確かもしれない。
何故なら彼女は現在水の呼吸の使い手ではないのだから。
彼女の現在の呼吸法は“
これは彼女が独自に編み出した呼吸法で、花の呼吸から派生したものと考えられている。
故に彼女は、現在は蝶屋敷で栗花落カナヲと共に胡蝶しのぶの指導のもと鍛錬を積んでいる。
そしてこの度、めでたく彼女の柱昇格が決まった。
本来ならばこれは喜ばしい事のはずで。
しかし錆兎の胸の内は、重く沈んでいた。
そんな自分が浅ましく思えてーー
錆兎はそっと瞳を伏せて、重い溜息を落とした。