CRY FOR THE MOON〈序、1、2〉
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
記憶障害の治療のため蝶屋敷を訪れると、必ずといっていいほど雪桜と鉢合わせる。
その度に彼女が声を掛けてくるので、自然と話す機会が増えていった。
「お加減は如何ですか?霞柱様」
「まぁ、普通。いつもと変わらないよ」
「そうですか⋯早くよくなるといいですね」
「君は?」
「私も変わりません」
「⋯⋯⋯。そう」
口元に微かな笑みを浮かべる彼女の顔色は、相変わらず血の気がなく蒼白い。
決して体調は芳しくないのだろう事が容易に想像できる。
それでも彼女は微笑っている。口元に微かな笑みをのせるだけの、少し寂しそうな儚い笑顔。
「お訊きしてもいいでしょうか?」
「何?」
「霞柱様はどうして蝶屋敷に?見たところお怪我もなさそうなので、不思議に思っていました」
「⋯⋯⋯⋯」
「ごめんなさい、話したくない事であればーー」
「いや、いいよ」
無一郎は雪桜に自身の記憶障害について話した。雪桜は黙って聴いていた。
「ごめんなさい⋯」
全てを聴き終えて、雪桜は悲しげに俯いてそう言った。
「どうして謝るの?」
聴いた事を後悔しているのだろうか。そう思うと何故か胸の奥がチクリと微かに痛んだ。
「こんな時、どう声を掛ければいいのか分からないの」
「雪桜⋯⋯」
「私の方から訊いておいて⋯ごめんなさい」
ふいに雪桜が俯けていた顔を上げて此方を見た。
「何でも言って下さい。私にできる事なら何でもします」
真摯な眼差しで無一郎を見つめて、雪桜は言った。
無一郎は少しばかり驚いて目を瞠り、やがて目元を緩めて淡く微笑んだ。
「じゃあ、一つだけ」
雪桜の手に自身のそれを重ねて、そっと彼女の手を握り締める。
驚いたのか身じろぐ雪桜。白い頬が仄かな血色を帯びる。
そんな彼女の頬にそっと触れて、撫でてみた。心がふわりと満たされるような、そんな感覚がした。
女の子に触れたいだなんて、今までそんな事は考えた事もなかったが、雪桜にだけは、触れてみたい気がした。
無一郎はそんな自分自身に内心驚きながらも、心のままに行動してみる事にした。
彼女の肩に、甘えるように凭れ掛かる。上目遣いに彼女の表情を観察するが、嫌がっている様子はない。
その事にひどく安堵して、無一郎は瞳を伏せた。
「暫くこのままでいて」
「⋯⋯はい」
握った手はひんやりと冷たい。無一郎は自身の体温を移すように、しっかりと握りしめた。