CRY FOR THE MOON〈序、1、2、3〉
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
真っ白な桜に埋もれた風景の中で、二人きりの吐息が舞う。
微かに耳を掠めるのは、木立のざわめきと下生えの揺らぐ音。
小さな生き物の気配。そんなあるかなしかの音が響き合って、静かな音を作る。
本当に微かな山の音。視界を埋め尽くす一面の白い桜を眺めながら耳をすませると、世界にたった二人取り残されたような錯覚に囚われる。
それでも時透先輩と二人なら寂しくも心細くもなくて、寧ろ温かさすら感じて、その感覚にひどく懐かしさを感じた。
「ねぇ、先輩⋯⋯」
その時、隣にいた時透先輩がふいにその場へ崩れ落ちるように膝をついた。
肩が小刻みに震えている。
「先輩、泣いてるの?どうしてーー」
言葉は途中で途切れた。傍に寄り添った途端、時透先輩が雪桜を抱き締めたから。
力強い両腕が、背骨が軋むほどに喰い込んで、苦しかった。
それでもーー
「雪桜⋯⋯!」
どこか必死な、縋り付くようなその抱擁を、振りほどく気にはどうしてもなれなくて。
雪桜は黙して大人しくその腕に収まる。
時透先輩の手が雪桜のそれを握る。指先を絡めて強く握り込む。
もう片方の手が後頭部に回って、引き寄せられた。
あっと思った時にはその唇は、時透先輩のそれと重なり合っていた。
一秒と、ほんの少しくらい。⋯⋯そうして時透先輩はゆっくりと顔を離すと、酷く真剣な瞳で雪桜を見つめた。
「雪桜⋯⋯好きだよ」
透き通った淡い碧色の瞳に、雪桜の顔が映り込む。
瞳の中の雪桜は、酷く戸惑った顔をしていた。
「お願いだ、雪桜。二度と僕から離れないで」
震える声には涙が混じっていた。その声音が、表情が、雪桜の胸をぎゅうっと締め付ける。
白い頬を、透明な雫が伝う。気がつくと、雪桜もまた泣いていた。
「誓います、先輩⋯⋯」
掠れた声でそう言って、雪桜は精いっぱい時透先輩を抱き締めた。