CRY FOR THE MOON〈序、1、2、3〉
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いざお弁当を交換してみると、その大きさに驚く雪桜。
「わ、大きい……」
時透先輩って見掛けによらず沢山食べるんだ……と、新たな発見にどきどきした。
「量が多かったら無理しなくていいから。残した分は、僕が食べてあげる」
「はい……」
時透先輩は優しい。とはいえ食べかけを渡すわけにはいかないから、雪桜は自分が食べられる分だけを残して、お弁当箱の蓋にご飯とおかずを取り分けた。
「いいのに……」
と微笑って、時透先輩は本当に全部を平らげてくれた。
「とても美味しかったよ、有り難う」
と微笑って告げてくれた。
時透先輩は、本当に優しくて、雪桜は密かに幸福を噛み締めていた。
その日の放課後、今日は部活はないと聞いていたので直接時透先輩のいる二年生里芋組の教室を目指した。
夕暮れ時の廊下は、どの窓からも同じように澄んだ橙色の光が射し込んでいる。
雪桜が教室の引戸へ手を掛けた時、中から話し声が聞こえた。
「時透ってあの水沫雪桜と付き合ってるんだって?」
思い掛けず自身の名が聞こえて、雪桜は咄嗟に息を潜めた。
「付き合ってるよ」
「マジかよ、いいなぁ」
「水沫雪桜っていったら校内の新たな四大美少女候補だぞ」
そんなのがあるんだ……し、知らなかった。
雪桜が一人衝撃を受けていると。
「別れる予定があったら、そん時は教えてくれよな」
「俺も」
「俺もー」
無神経な会話に冷汗が背中に伝うのを感じた。
やだ……。“その時”がありありと想像ができてしまい、眦に涙が滲んだ。
「別れる予定はないよ」
妙にきっぱりと時透先輩は言い切った。
「ふざけた事ばかり言ってると、怒るよ」
今までに聞いたことのない低い声。
「雪桜は僕のだから」
決して若さを侮らせない凄みと迫力がその声にはあった。
外で聞いているだけの雪桜でも、足が竦むほどに。
時透先輩……?
「じょ……冗談だって、そう怒るなよ」
程なくして焦ったような、上擦った声が聞こえてくる。
俺も冗談、俺もと続く。
扉の前で固まる雪桜の目の前で引戸が開いて、驚いたように目を瞠る時透先輩と、ばっちり目が合ってしまう。
動揺する雪桜に対し、時透先輩はすぐさま冷静さを取り戻して、静かな声で言った。
「…………。おいで」
戸惑う雪桜の手を引いて、時透先輩はその場を後にした。