CRY FOR THE MOON〈序、1、2〉
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
朝のホームルームを終えて、予鈴が鳴るなか着替えを進めていると、雪桜の姿を見て友人の麻衣が首を傾げた。
「何かジャージでかくない?」
麻衣の指摘に雪桜は頬を真っ赤に火照らせて、小声で答えた。
「あ……これは、先輩の」
「!、それって時透先輩の……ッ」
「しーっ!声が大きいよ」
「彼シャツならぬ彼ジャージか。いいなぁ、ラブラブじゃない」
「うぅ……」
恥ずかしさのあまり、ジャージに顔を埋める。
ふわり、と。時透先輩の匂いがした。
少し痺れるような深みのある、仄かに甘くて澄んだ香り。
恥ずかしさの中に、溢れ出す多幸感はどうしようもなかった。
「ジャージでかっ」
「何あれ、みっともな」
耳に障る甲高いくすくす嗤いが聞こえてきた。
幸せな気分が一気に冷汗に変わる。
それに気付いた麻衣がすかさず、
「きっと妬んでるんだよ。憧れの時透先輩と雪桜が付き合ってるから」
わざと彼女達に聞こえるように厭味っぽく言って。
「気にしちゃダメだよ。行こ」
にっこり優しく笑って麻衣は雪桜の手を引いてくれた。
雪桜は心の中でこっそり麻衣に感謝した。
昼休憩になり、雪桜は大きめのお弁当を抱えてどきどきしながら待ち合わせ場所である将棋部の部室を目指した。
生徒達の間では屋上が人気のランチスポットだが、二人きりになるために敢えて将棋部の部室を二人で選んだのだ。
引戸を開けると、部室はひんやりと涼しく優しい木の香りが漂って心地よかった。
「雪桜、待ってたよ」
時透先輩が笑顔で出迎えてくれる。
「あの、先輩……っ」
「何?」
耳を擽るような優しい声音に背中を押され、雪桜は勇気を振り絞って時透先輩の眼前にお弁当箱を差し出した。
「これ、私が作ったの。よかったら、食べて下さい……!」
時透先輩は、きょとん瞳を見開いている。
やっぱり唐突過ぎただろうか、迷惑だっただろうかと震える手を、温かな感触が包んだ。
はっとして顔を上げると、時透先輩は仄かに頬を染めて柔らかく、とても柔らかく微笑んでいた。
「嬉しいよ。有り難う」
表情に違わぬ優しい声音で囁いて、時透先輩はお弁当を受け取ってくれた。
筆舌に尽くしがたい幸福感が込み上げて、ほんのりとはにかんだ。
「それじゃあ今日は、お弁当を交換しよう」
思わぬ提案に、目を瞠る。
……本当に、時透先輩と付き合い始めてから毎日が幸せだった。