CRY FOR THE MOON〈序、1、2、3〉
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ーー1、優しい時間
時透先輩と付き合い始めて一週間が過ぎようとしていた。
帰路が同じ方向という事もあり、登下校は毎日のように一緒ににしている。
朝は合流地点で待ち合わせをして一緒に登校し、帰りは時透先輩は必ず自宅まで送ってくれる。
申し訳ないからと断った事もあったけれど、遅い時間に心配だからとその意見はすげなく却下された。
そもそも帰りが遅くなるのは、時透先輩の部活が終わるまで勝手に待っている此方が悪いのに。
時透先輩はいつだって雪桜に優しかった。
「おはよう、雪桜」
「おはようございます、先輩」
「敬語」
「あ……おはよう、先輩」
「なかなか治らないね」
「ごめんなさい……」
雪桜がしゅんと俯くと、ふわりとその頭を時透先輩が優しく撫でた。
はっとして顔を上げると、
「いいんだよ。気にしないで。少しずつでいいから」
長い睫毛が縁取る綺麗な淡い碧色を柔らかく細めて、時透先輩が微笑っていた。
雪桜もまたはにかんだ微笑を返して、二人並んで学校を目指して歩き出す。
軽く日常会話を交わす二人の間は、柔らかくて温かい空気に満たされていた。
……だけど、今日の雪桜は少しだけ憂鬱な気持ちも抱えている。
「どうしたの?」
「え?」
「何か浮かない顔をしてるから」
「あ……」
表には出さないよう気をつけていたはずなのに、時透先輩はびっくりするくらい感情の機微に敏かった。
「大した事じゃないの。ただ今日は、一限目から体育の授業があって、バスケットボールだったから楽しみにしていたのだけれど、ジャージを忘れてしまって……」
ついさっき気付いたのだ。雪桜が表情を曇らせながらも力なく微笑うと、時透先輩はとんでもない事をさらりと言った。
「かそうか?」
「え?」
「僕のジャージ」
「そ……そそそ、そんな、とんでもないですっ」
真っ赤になって、慌てて胸の前で手を振る雪桜。
「どうして?ちゃんと洗ってあるよ?」
「そういう問題では……っ」
「じゃあ貸してあげる」
にこっと。ユニセックス系の綺麗な顔立ちで、満面の笑顔。
その笑顔のあまりの可愛らしさに、雪桜は結局押し切られてしまうのだった。