花恋溢れる
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自らの答えに納得したかのように無一郎は頷く。淡い碧色の瞳が小琴をまっすぐに捉えた。
思わずビクッと肩が跳ねる。
「そんなに怯えないでよ。取って喰ったりしないから」
「つい先程喰われそうになったのですが、それは」
「あれぐらいで喰われそう?」
「あれぐらいって……う、ううん。それより、す、好きなのかもって………」
「好きだよ」
平生の茫洋とした様子とは打って変わって、妙にきっぱりとした口調で無一郎は言い切った。
突然の事態について行けず、目を白黒させる小琴に無一郎はゆったりとした足取りで近付いて来る。
「何で逃げるの。流石に傷付くんだけど」
慌てて後退する小琴と、構わず近付く無一郎。
「だ、だって……!私のどこが……!何で……!」
「何で?難しい事訊くなぁ……ムカついたから?」
「ハァ!?」
「名前。教えてくれなかったでしょ。最初はどうでも良かったけど……何故か徐々に腹が立ってきて」
「………………」
「気になって、少しずつ君の事を目で追うようになって。その内色々と調べたり」
「えぇっ!?」
「今では」
「!」
「顔を見ないと落ち着かないし、君の事が頭から離れない」
強い視線が小琴を捉えていた。淡い碧色の瞳に映り込んだ小琴の顔は、これ以上ないほどに動揺に満ちていて、我ながら滑稽に思えた。
「次に君の好きな所だけど」
「も……っ、もういいですっ」
心臓が爆発する前に遮ろうと試みた小琴だったが、無一郎は構わず続けた。
「確かに努力家だよね。任務にも鍛練にも一生懸命で……だけど、鬼に対して自分を餌みたいにちらつかせるのはどうかと思う」
「まさかのダメ出し!?」
「心配してるんだよ、これでも」
「……むぅ。……有り難うございます……」
素直に礼を言う小琴に対し、無一郎は優しく微笑んでその頭をそっと撫でた。
ドキンと小琴の心臓が不穏に跳ねた。
「いつも飄々として……何を考えているのか分からない君も好きだけど」
無一郎は口の端を吊り上げて意地悪くニヤリとし、
「今の分かりやすい
そう甘く囁いた。
「もおっ!誂わないで下さい!」
無一郎の胸元を突き飛ばして逃げようと試みた時だった。
手首を掴まれその手の意外な大きさと熱さに驚いて思わずそちらを向くと、酷く真っ直ぐな瞳と視線がぶつかった。
「僕の恋人になりなよ」
ぎゅと握った手に力が込められる。
「断ったら、許さないから」
命令形!さすが柱ね……怖いものなしだわ。一瞬そう思ったが、ここで小琴はある事に気付く。
ーー手が、震えてる?
そうか……と、小琴は瞳を伏せる。
別に自信がある訳ではない。柱の立場を利用して縛り付けようとしている訳でもない。
これは、彼なりの、精一杯の告白なのだ。
そう悟った途端、愛しさが込み上げて、トクンと胸が甘く疼いた。
ならば、此方も精一杯応えなければ。
「時透様、これが私の答えです!」
言うなり小琴は無一郎の右肩に両手を掛けると、背伸びをしてその頬にちゅっと口付けた。
「私、野々原小琴は霞柱 時透無一郎様をかかねてより尊敬し、一人の男性として慕っておりました!」
えいやっ!と気合でかねてよりの想いを告げると、無一郎は意外そうに目を見開いて此方を凝視した。
暫くして我に返り、
「本当にいいの?」
「断ったら許さないと仰ったのは、時透様ですよ?」
「そうだね」
ふわりと微笑む無一郎。心の底から嬉しそうな、はにかむような笑顔は、年相応の少年そのままで。
小琴は眩しそうに目を細めて微笑んだ。
そうして二人微笑みを交わし、藤棚の下どちらからともなく唇を重ねたーー