月に妖かし〈序、1〉
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雛月の兄弟子達を含めて人質は無事解放された。
軽い打撲や擦過傷など軽傷は負ってはいるものの、死者は一人も出なかった。
一見すれば無茶苦茶なやり方とも思えるが、爆薬の配置や火薬の量など緻密に計算されていた為、必然の結果といえる。
見事な手腕だが、雛月が命令に背いたのは事実。
手放しで称賛してやる訳にはいかなかった。
「随分と危険な賭けに出たね。君はなんで命令に背いてまで一人で来たの?」
「これは私個人へ向けられた恨みだ。貴方には関係がない」
「…………。如何なる理由があるにせよ、君は重大な隊立違反を犯した。近いうちに処分が下るから、それまでは謹慎だよ」
「承知しました」
特に反論するでなく、顔色一つ変えずに雛月は言った。
何か言いたげな顔つきで声を掛けたそうしている兄弟子達に、一瞥すらくれる事なく静かにその場を去っていく。
その背中を眺める無一郎の背後で、複数の気配が動いた。
肩越しに振り返れば、雛月の兄弟子達が全員揃って深々と平伏していた。
「柱、今回の事は全て俺達の失態です!」
「そうだね。分かってるのなら鍛錬に励みなよ」
「情けない話ですが戦いの時、俺達の陣頭指揮を取っていたのはあいつです。あいつがいないと勝てない戦いが、幾つもあった……!」
「それで?何が言いたいのかな」
「あいつは優秀な奴なんです!同時にあいつは……一人で何もかも背負い込む所もあるから……、今回の件だって、鬼の恨みをかって、あいつは……。
あいつは自分の事に他人を巻き込む事を極端に嫌う傾向があるんです。だから……」
「そうだとしても、隊立違反をしていい理由にはならない」
「それは重々承知しています!でも!」
地に額を擦り付けて、全員が声を揃える。
「どうか、寛大なご処置を……!!」
雛月美波……不思議な子だ。
彼らは兄弟子として彼女を気に掛けているというよりは、皆どこか彼女を慕っているように見えた。
その見解は、やはり間違ってはいないらしい。
「彼女の処分を決めるのは、僕じゃない。お館様だよ」
無一郎の言葉に隊士達の顔が曇る。
「だからと言って、お館様に直談判しようだなんて馬鹿な考えは持たないで。お館様は聡明な方だから、今回の件も全てを把握なさってる。
僕達は、ご判断に従うべきだ」
尚も言い募ろうとする隊士達を無視して、無一郎は踵を返した。