月に妖かし〈序、1〉
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雛月は驚くほどに上からの命令に忠実であった。
その性質は鍛錬に於いても、任務に於いても、いかんなく発揮されていた。
そんな彼女が無一郎の指示に背いたのは、ただの一度だけである。
隊士数人が、鬼の手によって拉致されるという事件が起きた。
拉致された隊士達には、ある共通点があった。
則ち全員が、雛月美波の兄弟子であるという事。
拉致された日……つまり襲撃にあった日付、場所は各自違う。
実力にばらつきがあるとはいえ、下弦ですらない鬼に、全員が全員拉致されるというのは妙だ。
地図を見つめながら思考を巡らせる無一郎の向かい側、雛月もまた地図へと目を落としていた。
「手が出せない理由があったんでしょう。例えばーー襲ってきたのが民間人だった」
「心当りがあるの?」
「さてね」
「何を勘違いしてるのかな?僕はお願いしてるわけじゃない。
これは命令だよ。知っている事は全部話して」
冷ややかに言い放つ無一郎。
これに対し雛月は特に顔色を変えるでなく、口を開いた。
「これは推察に過ぎないが、
「どうしてそう思うの?」
「隊士が拉致された周辺で聴き込みをしました」
「!」
無一郎が指示するより先んじて、彼女は既に動いていた事に、少しばかり驚いた。
「それで、結果は?」
「周辺で民間人が数名、行方不明の報告が上がっています。
いずれも現場には血痕どころか争った形跡もないという。
まるで自らの意志で蒸発したかのように」
「……成程」
行方不明者の人数を考えれば、全員が全員自らの意志で姿を消したという可能性はあまりにも低い。
行方不明者が出ている地域と隊士が拉致された地域の合致、それなりに実力を持つ隊士が手も足も出せずに捕縛された理由。
これらの事実を鑑みれば、自ずと答えは絞られる。
「厄介だな」
思わず声に出して呟いていた。
この推察が行き着く答えは、人質の多さを物語っていた。
「雛月」
地図に落とされていた視線が、此方を向く。
「これから作戦を詰めるから、君は暫く待機。場所を特定次第ここをたつからそのつもりでいて」
これに対し雛月は返事をしなかった。